四日目・『燃焼系』を超える者たち #2 | 中華の足跡・改

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問題は、肝心の俺らが乗ってきたバスが何色のボディーでどんな形をしていたか全く覚えていないことだ。この膨大な数のバスから探すのは不可能・・・となれば、人に訊くしかない。遠慮なんかしている場合じゃない。俺は手当たり次第に、さっき杭州からきたバスはどれですか、と訊いて回った。

何人目か、ようやく一人のおじさんが知っていた。

「アレ、あのバスだ」

「・・・えーと、あの、今動いているやつですか?」

「そうだ、早く走っていけ、もうすぐ発車しちまうぞ」

冗談じゃないぜ。谷本に説明してる時間もない。急げ、とだけいってそのバスへ走り出した。手を振って、そのバスを止める。

バスに乗り込んで、怪訝な顔をしている運転手に、さっきここに忘れ物をしたんだけど、と説明していると、乗務員が後ろの方から携帯電話を持ってやってきた。

「これですか?」

「それだ・・・ありがとうございます」

ようやく俺は安堵のため息をついた。そこで、汗をかいていたことに気付き、かるく手でぬぐう。電話を受け取り、谷本に渡す。

「すまん、ありがとう」

谷本は俺以上にほっとしていた。

「いや、気にすんな。間に合ったしな」

それから、俺はもう一度運転手にお礼を言い、石原のところへ戻った。

「見つかったかい?」待ちくたびれた様子の石原が尋ねてきた。

「ああ、ギリギリだったけどな。あと一分遅かったらアウトだったぜ」

「そっか、まあよかったな」

「ホントにすまん」谷本がもう一度謝る。

「いやいや、いいけどさ」石原も気にした様子はない。が、思いついたように続けた。

「待ってるとき、あのおっちゃんたちいろいろ話し掛けてきたんだけど、全然わかんなかった」

俺は笑って答えた。

「そうだろうな、しかもあの人たちなまりが強くて聞き取りにくいしな・・・」

いやあ、退屈しねえなあ、などとぼんやり思いながら、俺は空きタクシーを捜し始めた。

この日泊まるのは、初日に泊まったのと同じホテル。別のホテルを予約するのが面倒だったのだ。

チェックインして荷物を降ろし、俺たちはまたすぐホテルを出た。行き先は、今回の旅の集大成――というほどオオゲサでもないが――、上海雑技団。

会場は、外国人であふれていた。チケットを売っているおばさんは、初めから日本語で話し掛けてきた。以外だったのはチケット代で、一番いい席で200元。ガイドブックに書いてあるものよりも高い。怪訝そうな俺に、今年から値上がりしたのよ、とおばさんがいう。絶対嘘だ、と後ろで谷本がつぶやいたようだ。しかし今さら帰るわけにも行かないし、まあ日本円で考えればそれほどデタラメな価格でもない。その値段で行くことにした。

席は、意外にいい場所だった。会場はまるで映画館のようで、前方に舞台がある。その前から6列目、中央付近に俺らの席はある。これは意外にどころか、相当いい席だな、と、後で思った。

そして、雑技がはじまった。

演目は大体7,8演目くらいだっただろうか。さすが有名な上海雑技団だけあって、どれもすばらしいものだった。あるときは見ているこっちが冷や汗を握り、あるときはマジックのネタに頭を悩ませる。

中でも一番俺らにうけたのは、二人組みの女の子の演目。一人が横になって両足を上げ、もう一人がその足の上に座る。そう、少し前に「燃焼系」のCMで話題になった、アレだ。

ただ、やっていることは燃焼系を上回るものだった。CMでは足の上に座ったまま横にくるくる回転するだけだったが、こっちはというと、飛び上がって足の上に立ったり、そのままさらに跳んで空中で数回転してまた足の上に着地したり、と、たくさんの離れ業を披露してくれるのだ。上で飛び跳ねているのはまだ小さな女の子だが、たいしたものである。さらに、ある難度の高い(と思われる)技を決めた後、その子が控えめにくっとガッツポーズをしたのだが、それが石原のハートを射抜いたらしい。

「うわあ、あのイモウト、めちゃくちゃ可愛い!」と、一歩間違えればロリコンまがいのセリフを連発していた。萌え萌え全開だ。だいたい、イモウトって何だよ。オタクと間違われても知らんぞ。

俺はそんなに萌えたわけではないが、それでも素直に感動していた。死ぬほど練習して、失敗しては何度も死にかけたのかなあ、なんて考えると、200元が全然高い値段に思えなくなってきた。

とにかく、最後の夜にいいものを見ることができた。