はじめに言っておくと、俺は基本的にはギャンブルには縁がない。
パチンコやスロットなど何が面白いかさっぱりわからない。
マージャンは少々やるが、仲間内で小額の金が動く程度。
ちなみに、あまり強くはない。
賭け運というものがかけた星の下に生まれたんだろう、と、半分あきらめてはいる。
というわけで、競馬も、やらない。
ただ、一度だけ、友達連中にくっついて中山競馬場まで繰り出したことがある。
あれはたしか、二年前のこの時期――そう、有馬記念。
一度くらい体験しておいてもいいかな、と思ったのが一つ。
その時期は留学を控えてはいたけど特にすることもなく、ヒマだったのがもう一つ。
夜に同じ友人連中で飲むことになってたから、昼から競馬場につきあってもいいか、と思ったのがさらに一つ。
別の友人に誕生日用ビデオレターの撮影をすることになってて、その日にやると都合がよかった、というのがおまけに一つ。
――そういうフマジメな理由をいくつかひっさげて、熱気あふれる競馬ファンの聖地に足を踏み入れた。
有馬記念というのが、一年の締めくくりとして、ファン投票で選ばれた馬が走る、いわゆるオールスターレースである・・・ということくらいは知っている。
競馬ファンならそれは、熱くなって当然だろう。
何万人詰め掛けてるのかわからないここ中山競馬場は、ある種の異様な雰囲気に満ち溢れていた。
言ってみれば部外者の俺は、なんとなく申し訳ないような、なんともいえない居心地の悪さを感じてもいたのだが・・・。
とりあえず救われたのは、そういう「素人」が俺だけじゃなくて、他の何人かの友人もそうだった、ということか。
数人して競馬新聞をのぞきこんでみるものの、データの読み取りがさっぱりできず――というより、ハナから放棄していたが――、大体が馬の名前や直感といった、そんなものを頼りにぽちぽち馬券を購入。
ま、あたるはずもないのだが。
さて、メインレース。
俺も何枚か買ったが――自分で何を買ったか、覚えているはずもない。
一番人気の馬じゃなかったのは確かだが。
そして、みんなでスタンドへ。
スタンドは、それはもう、ものすごい熱気だった。
野球とは、また別の種類のものだ。
金がかかっている、というのも、無関係ではあるまいが。
ファンファーレが鳴り響き、一瞬の静寂の後、各馬が一斉にスタートを切った。
たちまち周囲は歓声に包まれ、蹄の音が響く。
もうすでに、どの馬がどうなのか、わからなくなっているが――。
凄い。
・・・と、思った。
目の前を次々と駆け抜けていく、人馬一体の波。
大地を揺らし、砂塵を巻き上げ、一陣の風となり、一頭また一頭と飛ぶように駆ける。
圧巻の迫力である。
少々、認識を改めた。
実のところ、俺は競馬というものを見下していたところもあった。
なんのかんのいっても、しょせんはギャンブル、と。
そんな俺に、競馬好きの友人は反論する。
――ただのギャンブルなんかじゃない。走る馬の姿がみんな好きなんだよ、と。
そうかねえ?あたった後の馬券の方が好きなんじゃないか?
・・・と、俺は笑って受け流していたものだが。
これなら、納得できる。
確かに、これは――かっこいい。美しい、といってもいいかもしれない。
人の目をひきつける要素は十二分に備えている。
・・・ちょっと反省しておくか。
ちなみに、レース結果は――忘れた。本当に。
あたらなかったのだけは覚えているが。
ああ、ごくわずかに、柴田という騎手(この騎手の親戚がライオンズの選手なのだ)の名を見つけて買った複勝が当たって、数百円だけ返ってきたんだったか・・・。