「貴腐人」はモダニズム的だった。それは、24年組が当時のマンガの手引書に、盛んにモダニズム的な描き方を至高として書いたからだ。
言葉のキャッチボール、意味とテーマ、読者に訴えたい事、そしてなによりも「個性」
個性を多くの人に認めてもらうために、プロになってガンガン稼ぐ、花形職業!

しかし、私が目にした現実は、おそろしく手引書とは違っていた。
売れるものを描いて、売れなければ、個性なんて言うのもおこがましい、10年早い。
かの池田理代子先生だって、「ベルばら」をやるまで我慢したのだ、かの竹宮恵子先生だって…
そうだ、売れなきゃあ、「個性」だの「描きたい事」などないんだ…
そんな時だった。「C翼」の同人誌ブームに出会うのは。

「パロディ」
それは、いわゆる脱構築だった。既製のキャラクターを使って、自分なりに解釈する。
プロになんかならなくても読んでもらえる受け皿を、「二次創作同人誌」は用意してくれていた。
漫画家ゴッコだったかもしれない。正当にプロを目指している友人からはさんざん「他人のフンドシ」と言われた。
それでも、「個性」に疑問を抱き、なんだか色々やれる可能性の見えるパロディの世界は
私にとって、とても遊びがいのあるオモチャにみえた。
なんでもあり。
あれとあれをくっつけてもOKなんだ? じゃあ次は、パロディのパロディをやってみたりして
次々と実験できる事を同人誌と「アニパロ」でやるのは楽しかった。

しかし、それもやがて、「お仕事」になっていく。同人誌でもそうだが、困った事に私の7割は「アソビ」でできている。自由に不真面目に、遊べなくなったらオワリなのだと思う。

モダニズムに対して、どうしてポストモダンがあったか。
20世紀の前衛を見る。すると、戦争やマインドコントロールに行き当たる。
イミを持つものは、洗脳に利用されてしまいがちなのだ。
やまなしいみなしおちなし、いいじゃないか。それで。
人は1つの物語の結末と共に成長する、進化する。その進化こそが、西洋の近代的精神だ。
少なくとも、イミもなくなんとなくつながっていられる、そんな空間で
傷つかずに馴れ合い、吸血鬼のように「進化」を否定して永遠で、
太陽に向かって飛んで墜落するより、月の下でサバトでもやってた方がいいもんね。

それから時が過ぎた。
デリダもフーコーもボードリヤールも死んでしまったぞ。どうしよう。
後に何が残っただろう?
オタクと腐女子の市場は巨大化した。今後も、誰でもできる気軽さと、何も考えなくてすむ浅薄さとで、盛んに「何か」は行われるだろう。

だけど、少し最近、私は「待てよ」と思っている。
表現ではなかったのだろうか。最初に目指したものは。こんなつもりじゃなかった。
いたずらっ子が必ずトラブルの後に言う言い訳のように、こんなつもりではなかった事態を感じるのだ。

おそらく、意思も意味も無くていい、ストーリーなどなくても成立する「作品」は
記号のやりとりに終始する。
景気のいい時はいい。記号の選択は自分への評価だ。
だが、吸血鬼がそれをただ繰り返す「永遠」に、飽きた時、何を選べばいいのだろう?


こんなはずではなかった。たしかに、それなりに楽しい日々を送ってはいたのだが。
結局は「個」は認められたいと望み、結局は無意味なものは、単に箱を変えて人が移動するだけであり
表現とは呼べないシロモノなのではないだろうか?
伝える事に対して、勇気を持たなければならないのではないだろうか?
閉じ込められ、諦めた「意思」は、消費社会と別な次元で、人と人とのつながりを求めるのではないだろうか?

数を制する事が勝利を示すのであれば、それは数のゲーム以上のものでは無い。

前衛芸術や、本来の米沢節である、コミュニケーション体であったはずの「コミケ」や「コミティア」が守ってきたものは
無意味な存在が、ただ記号で識別され振り分けられ、うすっぺらく設定されたイケメンを求めて右往左往する事だっただろうか?
最初から仕掛けられたブームという記号を選択すれば、それで終わるものだったのだろうか?

否だ。
と、思うとすぐに出口を見失う。
だったら二次創作同人誌をやめればすむ事だから。

おそらく、時代はその哲学と詩の欠如から、再び「意味」を求めるだろう。
付和雷同する事よりも、個性や主体を選び始める時、必ず。

では二次創作やパロディなんて、どうせ中身の無いミーハーなもの
そうだろうか?

私はこう考える。
もし、腐女子ないし貴腐人が本当に良い作品と巡り会い、(ブームに左右されずに)
感動を素直に表現し、完全な1つの作品として提示する事ができる限り
空洞化したりはしないのではないか?と。

それを可能にするには、一旦、ニーズに応えるよりも
芸術至上主義に近い方向に至る必要があるのかもしれない。
カンタンな事だ。仕事なんかせず、心から遊べばいい。

だけど、発行部数、大手ピコ手のヒエラルキー、自負心に不景気に…
けっこう難しいんだよな、これが。