田舎に住んでいた頃。


小学生の妹が、湯舟に浸かってボ~ッとしてる。

ふっと下を見ると

掃き出し用のちいさな曇り窓から、女が覗いている。

窓は閉まってる。


つまり、窓のこちら側に、顔だけがある。


で、その女の顔がじーーーーっと妹を見てる。

妹の方も何故か変だとも思わず、じーーーーっと見つめ返す。

風呂場でじーーーーっと、二人見つめあってる。


そんな事が何度かあったと、下の妹は言っていた。
この荒涼とした風景がたまらんね。
絶景だ。

うちのマンションの裏手には二階建ての民家がくっついておりまして‥
まあ、これがマンションとどういう関係なのか分からんのですが。

この家とマンションは僅かな隙間で隣り合っていまして
此所のニ階廊下奥は壁が無く、一旦外に出る形で隣家に行けるよう
短いデッキが渡してあります。
つまり、ここからは隣家の二階出入り口にしか行けない構造なのです。

まあ、壁が無いので二階奥の共有部は風雨が入り放題なのですね。
私は四階なので、全く影響はないのですけど。

で、3年前の初夏でしたか
夜中、買い物に降りて行ったのです。
大雨が降っていまして、二階奥の廊下は雨水で濡れております。

部屋の凹凸で廊下奥は隠れて、見通せません。
夜ともなれば奥に灯りが無いので黒い穴のようになり、ますます見えません。

と、その濡れた床の上にモップのようなものが。

綺麗に揃ったものでは無く、ざんばらな黒いモップがべたっと。
柄は影に入って見えません。
フサの部分だけ。
水を含んでべったりと。

それが、ずるるっと影の中に引き込まれて行きます。

誰かいるのか?

人の気配は全くありません。
真夜中ですし。

雨の、ざーーーっという音しか聞こえません。



一瞬「うっ」と思いましたが
ああ!と。



隣家には犬がいるようなのです。
姿は見た事がありませんが、鳴き声はします。
ずいぶん歳をとっているのか‥それとも病気なのか
「ひう~ん」という弱々しい声で夜中に鳴いているのが聞こえます。
それもいつからか聞こえなくなりましたが…。

その犬の尻尾かな?と。


隣からこちらに入り込んでいたのでしょうか。
雨の中びしょ濡れで…犬小屋ってどうなっているのだろう?
二階にそんなもの置くかな…
いや、声はいつも一階からしてたな…

猫か?

猫にしてはずいぶん大きな尻尾でした。
幅広くて。

扇のように拡がっていました。


腰を降ろした大型犬のものにしか思えません。




それにしても…




腰を上げずに這いつくばっていたのでしょうか。

それは、ずるずると床に貼り付いたまま影の中に消えていったのです。




のちに、鳴いていたのは隣家の犬で無い事が判明。
さらに隣りの民家の一階で飼われていた犬の声でした。

件の家が犬を飼っているかは不明です。