この物語は、今からおおよそ10年前に書き始めたハーフ・フィクションです。


処女作「アジアのミラクルパンチ」の続編とでも申しましょうか。

 

しかし、こちらは現実にかなりの脚色を加えた“フィクション”であります。

 

半分ホントだからハーフ・フィクション(^。^)

 

当時、第1章から書き進められなかった内容をはじめから見直し、時代背景を考えつつ書き直しています。

 

骨子はできていますが、ブログではハプニングもあることでしょう。さて、どんなストーリーになるのでしょうか。ハーフ・フィクション不定期便、配信開始です。

 

 


『伸ばした手』

 

■第1章  不愉快なファックス

 


暗闇の中を歩いている。遠くに1ヶ所光が当たっている場所が見えた。


 光に向かって歩き出すが、さっきまで進んでいたはずなのに前に進めない。どうしてだろう。光の中に誰かの姿が見えた。


(…ルナ…)


 大人たちに抱きかかえられ、右手をめいいっぱい私の方に伸ばしている。


 私の呼吸は速くなり、両目から涙があふれ出す。伸ばした手をつかもうとするが、届かない。


 突然,、大泣きするルナの叫び声が聞こえてきた。


「ママ~~~~~!!イカナイデェェェ~~~!!」。・゚゚・(≧д≦)・゚゚・。

 

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「おはよう。紅茶入れてくんない?」


私は榎本ヒカル25歳。この家には去年から住み始めた。


「おはようございます、ヒカルさん。」

 

彼女は小川唯22歳。3ヶ月前から同居している。唯が来てからは、家事はもっぱら彼女がこなしている。

 

「はい。甘~~い紅茶ですよ。ヒカルさん、朝から元気がありませんね。またあの夢を見んですかぁ。」

 

唯には分からないよう新聞で顔を隠してはいたのに、すっかりバレバレなのねぇ。


(仕方ないじゃない、見ちゃったんだからさ)(  ̄っ ̄)

 

「そんな落ち込んでる場合じゃないですよ!もう。今朝面白いファックスが来てたんです。目を通してくださいな。」

 

「マジ!どこから?」

 

「それが、エマスって会社名なんですけど、これまで関わった記録がないんですよ。」

 

私たちはNOAという名前で仕事をしているのだが、じゃぁ何屋さんなんだ?というとややこしい。簡単に言えば何でも屋。出版社からのデザイン発注も受ければ、取材、原稿書き、翻訳、システム開発、電気の配線作業、テープ起し、ウェブ制作、アパレル販売、エトセトラ。大抵のことは引き受ける。

 

「ふ~ん。なんだろね。」

 

お腹が空いてきたので、大盛りご飯と格闘しながら話すことにした。揚げと豆腐の味噌汁もおいしいねぇ~。


「それでですね~インドネシア語なんですよ、文章が。」

 

一瞬、鮭を喉に詰まらせそうになった。むせながら

 

「インドネシア語? って、唯、読めるの?」

 

唯はとても頭いいんだけど、インドネシア語はわからなかったはずなんだけどな。

 

「ヘヘッ。実はですねぇ、密かに勉強してたんですよ。ルナちゃんがインドネシア語しか話せないじゃないですかぁ。だから、ルナちゃんに会えたらインドネシア語で話して、ヒカルさんを驚かせようと思っていたのでした。」

 

へぇ~~。感心しちゃうな。唯の気持ちにジ~ンとくる。゚(T^T)゚。

 

「驚いたねぇ。唯は記憶力抜群にいいから、すぐに覚えちゃうんじゃない。」

 

 実は、私には3才になったばかりの娘がいる。名前はルナ。よくある?“国際別居”という事情から、旦那のお国であるインドネシアに連れて行ってしまっている。別れた時はちょうど1歳半。ちょうど言葉を覚え始めた時期だった。日本語はまったく話せなくて、インドネシア語とスンダ語だけ話せる。3歳になるまでにお金をためてルナを迎えに行くと約束し、離婚はしないで仕事をする毎日なのでした。

 

「ねえ。ファックス見せて。」

 

「はい、どうぞ。あの、このエマスって、GOLDのことですよね。」

 

「うん…。そうだねぇ~。なんだか怪しいなあぁ。」

 

 このファックス、国内から発信されている。ということは、私がインドネシア語で通じる相手だって分かっていたことになる。そっか、ファックス番号が分かるんだもんね。そのくらい分かるか。しかし、この時代にファックスかよ。メールがあるだろ。

 

「ヒカルさん。文章中のこの番号は何ですか。」

 

「そうだなぁ。どっかでみたことあるな。ちょっと待って。」

 

机の引き出しにあるインドネシア関連の名刺入れから、青い1枚の名刺を探し出した。

 

「あったあった。これを見てごらん。記号が同じだろ?これは政府から発行されたライセンス番号。“海に沈んだ沈没船から財宝を採取してもいいっていう許可を持ってる”ってこと。」

 

「そんなのあるんですか。」

 

「どうなんだろう。この名刺の人も友達の友達だしね、あんまり信用しないほうがいいけど。身分やらライセンスなんてどうにでも説明できるしさ。まっ、彼らの説明が正しければ、まず間違いないね。」

 

「それじゃどうしましょうか。」

 

ファックスを読み進めるヒカルの眉毛が時々ピクピクッと動き、最後まで読み終えると、

 

「ふぅ~~~ん。そっかぁ。」

 

と勝手に納得して、

 

「一度この住所に行ってみよう。お金出すっていってるんだしね。」

 

いつもと違う雰囲気のヒカルに、唯は内心ビビリながら、


「はいっ。それではアポイント入れておきます。」

 

と言って急いで受話器を上げた。

 

「唯。まだ朝の7時だよ。お昼過ぎに電話してね~。」

 

と突っ込んだヒカルの表情は、とっても不愉快そうだった( ̄_ ̄ i)