【 映画の解釈における、真の用途の考察 】
「ライフオブパイ・トラと漂流した227日」
映画の中には、監督や作者が意図を持って、背景や意味を隠して表現したり、
観る側の解釈に委ねたりする映画あります。
その意図を探る事を通じてマーケティングの勉強の一環としたいと思います。
英国連邦で最も権威がある文学賞とされる
ブッカー賞に輝いたヤン・マーテルの小説「パイの物語」を映画化した、
「ライフオブパイ・トラと漂流した227日」アン・リー監督をDVDで視聴しました。
上映当時は洋上をトラと一緒に船にいる少年の写真と、
「なぜ少年は、生きることができたのか」という宣伝コピーから、
少年アドベンチャー&ファンタジーものと思い映画館では観なかったのですが、
大変に美しい画面でしたので3Dで見ていればと思っています。
物語は、インドで動物園を経営をしていた主人公の16歳の少年「パイ」の一家4人が、カナダに移住する事になって、動物ごと日本の貨物船で太平洋を孝行中、
酷い嵐に襲われ沈没してしまいます。
沈む船から唯一少年パイだけが救命ボートで脱出するのですが、
その小さい救命ボートには、
少年の他に、シマウマ、ハイエナ、オランウータン、ベンガルトラの動物が乗っていました。
ハイエナがシマウマとオランウータンを襲って殺してしまいますが、
そのハイエナもトラ(ベンガルトラ)に襲われて殺されてしまいます。
ボートには少年とトラ(リチャードパーカーという名前がある)だけ。
空腹のトラが隙あらば少年を狙う中、サバイバルをしながら太平洋を漂流し、
危機的状況を少年が乗り越えて行きます。
この間の描写が長く、映画の大部分を占めます。
画面がとても美しく幻想的な海面の様子が描かれます。
途中で食人島などに寄りながらも、無事に少年とトラはメキシコに流れ着き、
現地の人に少年は助け出されます。トラは森に消えて行きました。
※ ここからは映画の「ネタバレ」になりますので、
映画を観ていない方は、十分にご注意下さい。
その後、療養中の少年に前に船の保険会社の日本人が二人訪ね、
沈没から漂流中の聞き取り調査を行います。
少年はトラと漂流した経緯を話しますが、
二人は信用せずに別のの話を要求します。
そこで少年は、
救命ボートにいたのは、台湾人の青年と船のコックと母と自分だけであった。
足を怪我した青年をコックが殺し、その後コックが母を殺したので、
自分がコックを殺したと短く語ります。
保険会社の二人はこの話も信用せず、トラと漂流した話を報告書に採用します。
この映画は、大人になった主人公を小説家が訪ねて取材の為に話を聞くという、
構成になっているのですが、最後に大人の主人公がその小説家に聞くのが、
「あなたは、どっちの話を良いと思う?」という問い。
これがこの映画の核であり、小説家は「トラと漂流した話」を採用すると答えます。
実はこの映画は、極限におかれた人間の本質に踏み込んだ話。
ラスト近くで明かされる、ファンタジーとはかけ離れた、
凄惨な事実を含んだ内容です。トラはその心理の象徴であったと言う事。
しかし、何故この映画の製作者は、
映画の大部分を使って、美しい海のシーンを見せたり、
トラとのエピソードを描いたのか。
その解釈を突き詰める事が、
「どっちの話を良いと思う?」という主人公の問いにも至り、
様々な角度から推測できる、この映画の真の用途に至ると考えます。
ランチェスター名古屋/アサヒマネジメント 川端