・映画評:私は貝になりたい | アジアの真実

・映画評:私は貝になりたい

私は貝になりたい スタンダード・エディション [DVD]
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 昨年末に公開され、既にDVDも発売されているこの作品ですが、今回初めて見る機会があり、思いのほか良作でしたので紹介します。
 この作品自体はリメイクで、過去に何度かドラマや映画化されており、特に初出である1958年の作品は有名で高い評価を得ていると聞いています。

 この映画は、戦後BC級戦犯として連合国に捕らえられ、いわれのない罪で裁かれた人々に焦点を当てた作品です。極東軍事裁判におけるA級戦犯については認識がある国民も多く、何かと考える機会が多いですが、我々日本人には、BC級戦犯とされた人々についての認識や知識が非常に少ないのは事実です。

 BC級戦犯として捕らえられた人たちは分かっているだけでも1万人程度おり、そのほかに中国やソ連などの現地で捕らえられた人を含めると相当な数に上ると言われています。そしてその裁判は東京裁判と同じく、戦争の勝者側による一方的な裁判であり、勝者側の一方的な言い分や感情で判決が下されたり、証人として呼ばれた者が、あいつだと指を指しただけで死刑となったりするなど、無実の罪や不当な判決により重罪や死刑となった方が相当数いた上、再審も殆ど認められなかったと言います。

 
 物語自体は、徴兵されるも生還した主人公が家族と小さな床屋を営みながら、貧乏ながらもやっと落ち着いた生活ができると安堵し始めたところ、戦時中に米軍捕虜を殺害したといういわれのない容疑で米軍に捉えられ、死刑判決を受けることによる本人と家族の苦悩を描いています。これからやっと平和に家族と生活できるというときに死刑を宣告され、妻も必至で嘆願書の署名などを集めて回るも、その全ては聞き入れられることもなく、ただただ死に向かっていく家族と本人の苦悩を見る者に強烈に感じさせます。
  
 この映画は単なる反戦というメッセージを伝えるだけではありません。弁明の機会さえも与えられない、戦勝国が敗戦国を一方的に裁く裁判の異常性、そしてその一方で、明らかなる米軍による戦争犯罪である、原爆や各地の市街地への無差別空襲によって、何十万という日本の一般人が殺されたことに対しては何の裁きも行われていないという矛盾についてもしっかりと触れています。特に後者の点については、主人公と同じく死刑になる、石坂浩二氏が扮する矢野陸軍中将が、最後の言葉として


 「マッカーサー、トルーマン大統領へ対し、元日本陸軍中将矢野が申し上げる。アメリカ軍が日本へ対して行った無差別絨毯爆撃、そして100万人に及ぶ一般市民の大量殺戮は明らかに戦争犯罪の恐れあり。爆撃の作戦立案者、航空司令官を直ちに軍事法廷に招致し、その詳細を裁くべきである」


と非常に印象的な言葉を語っています。

 約140分と長編ですが、途中で飽きさせることもなく物語の中にずっと引き込まれる作りも映画として良い出来に仕上がっていると思います。


 まだ見られていない方は、機会があった際には是非一度見られることをお勧めします。


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