・書評:「誰も国境を知らない ~揺れ動いた日本のかたちをたどる旅~」 | アジアの真実

・書評:「誰も国境を知らない ~揺れ動いた日本のかたちをたどる旅~」

誰も国境を知らない―揺れ動いた「日本のかたち」をたどる旅
西牟田 靖
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 今回お勧めする本は、ノンフィクション作家の西牟田靖氏の「誰も国境を知らない」です。大変興味深く、新鮮で勉強になりました。自信を持ってお勧めします。

 海に囲まれた日本は、普段あまり”国境”という概念を意識することはありません。日本の北端、南端、西端、東端を正確に言える人はどれくらいいるでしょうか。またご存じの通り、北方領土、竹島など実際に他国と領土問題も抱えていたり、尖閣諸島や沖の鳥島など、他国が日本の領有や支配方法に文句を付けている島もあります。しかしながら、日本にはそれらに触れることは「タブー」であるというような不思議な空気があります。

 西牟田氏は、対馬、小笠原諸島、与那国島の他、一般人が立ち入ることが難しい 竹島、北方領土、沖の鳥島、硫黄島、尖閣諸島を苦労して実際に訪問し、現在のその土地の様子、そしてそこに現在住む人々、かつて住んでいた人にインタビューを実施し、国境が抱える”生”の情報、問題を剥き出しにレポートされています。私も領土問題については多少は勉強したつもりでしたが、これだけ現実的な情報に触れたのは初めてでした。また、膨大な資料を元に、これらの島の事実に基づいた歴史が細かく紹介されています。これらを読むだけでも日本の国境、領土問題について相当な知識が付くことと思います。

 興味深いのが、国境問題を抱える島については、必ず両方の視点からそのレポートがなされていることです。例えば、北方領土では実際そこに住むロシア人の考え方や生活をレポートすると同時に、返還運動を続ける旧島民が、戦前は島でどのような生活を歩んでいたのか。そしてどのような経緯で島を追われたのか。そして今はどんな思いなのかを調査されています。
 竹島に関しては、韓国人の竹島ツアーに半ば身分を隠して参加して竹島に上陸。その際見た実効支配の姿や韓国人の様子をレポートすると同時に、かつて竹島で漁をしていた日本人漁師や、返還運動の責任者、そして韓国が不法占領を始めた後に、海保の保護の元一度だけ竹島へ上陸した漁師の話などがレポートされています。この話は、かつての日本が竹島問題に関してもっと積極的だったこととを物語っており、新鮮な感じがしました。 

 この書籍は、所謂「右」でも「左」でもありません。文中に過激な主張は見られません。これらの国境の島は紛れもない「日本領土」であるという前提の元、島の今現在の偽りのない姿と、そして偽りのない歴史事実、さらに当事者双方の視点からレポートされているのみです。イデオロギーを抜いて見るからこそ、剥き出しの島の姿が見えてくるのです。これこそがジャーナリズムでなはいかとすら感じました。竹島など、読む人によっては「この島はもう帰ってこないのではないか」と思われるほど絶望的な状況に感じられるかもしれません。しかしそれが現実です。
 
 最後に、著者の後書きから一文を抜粋します。
「戦後一貫して「国境の島」の現実に手をこまねいてきた、もしくは目をそ逸らし続けてきた、この国のリアルである。けれど自分が生まれ生きる国の「領土」や「国境」について、過去をタブー視せずに知ること、考えることは、決して「愛国心」や「ナショナリズム」という言葉にのみ集約されてしまうことではないはずだ。知らなくて当たり前と開き直るのが時代の趨勢だとしても、「国境の島」を直視することで見えるもう一つの日本の姿に、僕はそう感じずにはいられなかった」


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