・日本の対中外交の着地点はどこにあるのか ~目先の現象だけでは見えない着地点~
麻生太郎外相の対中強硬姿勢が目立っている。小泉純一郎首相の靖国神社参拝への中国、韓国の反発に「靖国の話をするのは中韓だけ」と批判。政府が閣議決定した答弁書に反して「中国の軍事力増大は脅威」との持論も展開している。3月9日には、中国を唯一の合法政府と承認した日本の立場をよそに国会で「台湾は国」と繰り返し答弁し、修正する場面もあった。発言のたびに中国側が非難する連鎖が続き、東シナ海のガス田開発を巡る対立や、中国向け円借款の閣議決定先送りなどと相まって、日中関係は一層冷え込んだようにみえる。
発言も含め対中強硬路線を徹底した結果が本当に国益をもたらすのか、着地点は見えない。中国市場をにらむ国内経済界には「なぜ中国をことさら刺激するのか」とまゆをひそめる向きがある。首相の靖国参拝による日中対立にも「何度も参拝すべきではない」(マレーシアのマハティール前首相)、「日本か中国か。我々にそんな選択をさせないで欲しい」(シンガポールのリー・シェンロン首相)など、中韓以外から懸念が出ている。3月15日に麻生氏がガス田開発問題で「(中国の一方的)採掘が始まった場合、対抗措置を検討しなくてはならない」と国会答弁したことには、二階俊博経済産業相がテレビ番組で「本当は外相が慎重にならなくてはいけない」と苦言を呈したほどだ。
台頭する中国にどう向き合うか、必要なのは外交的戦略だ。麻生氏が対中強硬路線をひた走る理由は何なのか。親台湾派の顔が出ただけなのか、歯に衣着せぬ麻生節の行き過ぎなのか。もしそうなら、外相の資質をうんぬんされても仕方ないだろう。 (後略)
「歴史を基礎にするな」中国政府系元所長が対日転換論:読売
【北京=藤野彰】中国が歴史問題で対日圧力を強める中、政府系研究機関・中国社会科学院の元日本研究所長で国際問題専門家の何方氏が、「歴史問題を日中関係の基礎にしてはならない」との見解を、中国の専門誌「社会科学論壇」(3月上期号)に発表した。何氏は歴史偏重の対日政策を批判し、事実上、歴史カードの放棄を主張。中国で「対日新思考」が封殺されて以降、対日政策の大胆な転換を訴える意見が公開されるのは極めて異例で、論議を呼びそうだ。何氏は外務省弁公庁副主任、国務院国際問題研究センター副総幹事も務めた元政府幹部。同誌に掲載した自らのインタビュー記事の中で持論を表明した。
何氏は「歴史問題を国家関係の基礎とするのは非現実的で不適当。歴史に決着をつけようとすれば、どんな国家と隣国の関係も大国同士の関係もうまくいかない」と指摘した。さらに、「日中関係の基礎を歴史問題での共通認識に置いても、実現は難しいだろう。歴史の決着を最優先すれば、両国関係は絶え間ない悪循環に陥る。それはわが国の戦略的利益にかなうのか」と疑問を呈し、歴史カードを切り続けることは中国の国益を損なうとの見方を示した。
9月に迫った総裁選を睨んでか、対中強硬派である麻生氏や安倍氏の言動に対し、「それが本当に国益になるのか」という声がここにきてにわかに高まっているように思えます。ここで何度も訴えてきたことですが、私は強硬な態度で不当な要求を突きつける中国に対して、譲歩することではなく、主張すべきことはしっかりと声を上げていくことこそが長い目で見た時、両国の国益に繋がるのだと確信しています。民間企業の中国進出の障害になるなど、短期的な利益の為だけに中国への譲歩を続ければ、これから先の日中関係にさらに大きな禍根を残すことになります。目先の利益の為に、この先ずっと中国に対して土下座外交を続けていくという選択肢をとるのか、将来的な対等で相互利益関係をとるのか。「着地点が見えないと日経の記事では書いてありますが、それは目先しか見ていない為に、麻生大臣や小泉首相が目指している着地点が見えないだけです。
ここ数年の小泉首相や、町村前外相、麻生外相、中川前経産省などの言動は、中国相手に譲歩し続け、一方的な要求を呑むだけの弱腰外交から脱する為の前哨戦でした。今まで何でも言うことを聞いてきた日本が反抗してきた。当然中国は日本非難を高めます。丁度この点だけを見て、現政府の外交姿勢を批判するのは、先が全く見えていない者の愚言だと言っても良いでしょう。中国に対して正当な主張をしたら、「はい、今まで申し訳ありませんでした。明日からは日本の言うことを聞きましょう」と一朝一夕に変化があるわけがないのです。
日本が今の姿勢を崩さないことで、中国に対して、このままでは自国の利益に繋がらないことを少しずつでも理解させ、段階的にでも中国の対日外交を変化させ、対等な関係に持っていく。これが何年かかるかはわかりませんが、走り始めたこの流れを止めるべきではありません。実際、二つ目に紹介した記事を見ると、中国内でもそれを理解し始めている勢力が出てきているのです。このような発言が発表されることは、今までの中国では考えられなかったことです。
今の日本政府の外交姿勢を分析するには、足元だけ見ないで、その先まで見ることが大事です。また、その際に今回のように中国が発する小さなシグナルを見逃してはいけません。せっかく日本側も、そして中国側も動きはじめた流れを、足元しか見えていない日本人自らが潰すことがないように願います。
参考書籍:
中国は日本を併合する
平松 茂雄