ある男は、
行き詰まっていた。

仕事も、
プライベートも、
何もかも上手くいかない。

というか、
思ったように進まないことばかりだった。



男は、
夜更けに、
日課として、
飼い犬のペスと散歩に出た。

公園のベンチに腰掛けて、
男は思った。


犬は不満なんて無いだろうな。
気楽なもんだ。
羨ましいよ。


それは声に出ていたようだった。

すると、
隣に居たペスが溜息を吐いた。

そして、


何言ってやがる。
やれ、お手をしろだ。
やれ、餌を待てだ。
毎日うんざりなんだぜ。


は??
い、犬が喋った?
嘘だろ?

男は犬に何度も、

話せるのか?
もう一度話してくれよ!

と声をかけた。

しかし、
二度と犬は喋らなかった。


何日か後、
枕元に手紙が置いてあった。


吾が喋ったことは、
決して口外してはならない。
世界には知らない方がいいことがある。

但し、
お前のことは嫌いではないし、
お前の辛さもわからないではない。

これからは、
満月の夜にひとつだけ、
愚痴を聞いてやろう。

あの公園のベンチで。



その日から、
男には、
満月の夜にだけの、

親友

が出来た。





自室の布団で、

二人で眠ることも増えたが、

そんなときは、

ペスは決して喋ることはなかった。