―――その子は部屋の片隅に現れた
ロシア人形のようなゴシック調の綺麗な服を着ていた
髪はニセモノを思わせるほどに綺麗で艶めいていて
黒くて大きい綺麗な瞳は今にも吸い込まれそう
そして、触れたら壊れてしまいそうなほどに小柄で華奢な体をしていた
"僕はそんな君が好きだった"
言葉を発するより先に君を抱きしめた
―――それは、天使である僕が犯した最大の罪
君は何を言うでもなく、僕に身を委ね
僕は天使の自覚を全て捨てた
右手は体をなぞりながら腰へ
左手はその綺麗な髪を撫でていた
しかし、それ以上は何もない
本当に抱きしめるだけ
愛を表現するにはそれだけで十分だった
―――おかえり、Emily
僕はついに泣き出した
Emilyにバレないように静かに、静かに
でも本当は
僕もEmilyも知っていた
―――部屋に現れたのは僕だったのだ
2年前
僕はEmilyをかばって死んだ
Emilyは涙が枯れるまで泣いて泣いて、泣きじゃくり
その涙の最後の一滴が僕を天使にした
天使は決して生きた人間に触れてはいけない
―――さようなら
僕は最後の一言を発し、Emilyの前から消滅した
またEmilyは泣きじゃくった
でももう奇跡は起こらない
Emilyの涙が濡らしたのは僕じゃなく
かつて僕がEmilyから貰ったハンカチ
―――ありがとう
死してなお残り続けた思い出のハンカチ
そこには今も僕とEmilyの名が刻まれていた
E.L.Nigitray