こんにちは。
本日も、読者の皆様に心の安らぎをお届けするため、風雅なる雑談から始めさせていただきます。どうぞお付き合いくださいませ。
小説です...。
「夢に蘇ってきた親友」
第八章 小さな旅に出る決意
翌朝、昭夫はいつになく早く目を覚ました。
冬の朝の冷たい空気が部屋に満ちているのに、胸の奥は不思議と温かかった。
昨夜ノートに書き出した「やりたいこと」のリストが、頭の中で静かに輝いている。
――旅に出たい。
――あの約束を果たしたい。
その思いは、夢の中で康夫と再会して以来、日に日に強くなっていた。
朝食を済ませると、昭夫は押し入れから古いリュックを取り出した。
若い頃、家族旅行で使っていたものだ。
埃を払いながら、昭夫はふと笑みをこぼした。
「こんなもの、まだ取っておいたんだな」
リュックの中には、当時の旅館のパンフレットや、子どもが描いた落書きが残っていた。
それらをそっと脇に置き、昭夫は必要なものを詰め始めた。
着替え、洗面道具、薬、そしてノート。
旅の予定はまだ決めていない。
だが、行き先を決めない旅も悪くない
――そんな気がしていた。
準備をしながら、昭夫はふと窓の外を眺めた。
冬の空は薄曇りで、遠くの山並みがぼんやりと見える。
その景色を見ていると、胸の奥に懐かしい感覚が湧き上がった。
――康夫と、あの山に登ったことがあったな。
若い頃、二人で無計画に山へ向かい、途中で道に迷って大笑いした。
あのときの空気、風の匂い、康夫の笑い声。
すべてが鮮明に蘇る。
「……行ってみるか」
昭夫は小さく呟いた。
最初の旅先は、あの山にしよう。
康夫と若い頃に訪れた、思い出の場所。
決意が固まると、身体が軽くなったように感じた。
まるで、長い間背負っていた重荷が少しだけ下りたようだった。
昼過ぎ、昭夫は近所の山本さんに会った。
買い物帰りのようで、袋を提げて歩いている。
「あら、手塚さん。今日はなんだか元気そうですね」
「まあね。ちょっと……旅に出ようかと思ってね」
「旅、ですか?」
山本さんは目を丸くした。
昭夫は照れくさそうに笑った。
「若い頃に行けなかった場所があってね。今のうちに行っておこうと思って」
「それは素敵ですね。気をつけて行ってきてください」
その言葉に、昭夫は胸が温かくなった。
誰かに背中を押されるような気持ちだった。
家に戻ると、昭夫はリュックを玄関に置き、深呼吸をした。
旅に出るのは何十年ぶりだろう。
不安もあるが、それ以上に胸が高鳴っている。
夕方、昭夫はお茶を飲みながら、静かに窓の外を眺めた。
空は薄紫に染まり、遠くでカラスが鳴いている。
その景色を見ていると、ふと耳元で声がしたような気がした。
――昭夫、いいじゃねえか。その調子だ。
康夫の声だった。
もちろん、空耳だ。
だが、昭夫は微笑んだ。
「お前も一緒に来るんだろ?」
返事はない。
しかし、部屋の空気がわずかに温かくなったような気がした。
夜、布団に入ると、昭夫は明日のことを考えた。
電車に乗り、あの山の麓の町へ向かう。
そこからゆっくり歩いて、昔の道をたどる。
――康夫、俺は行くよ。
――お前との約束を、果たしに。
昭夫は静かに目を閉じた。
胸の奥には、久しぶりに“明日が楽しみだ”という感情が灯っていた。
その夜、夢は見なかった。
だが、それはきっと、康夫が「もう大丈夫だ」と言っているように思えた。
つづく
さて、今日のカラオケは、高橋真梨子さんの「ごめんね」です。
この歌は、時代を超えて多くの人の心に寄り添い続ける名曲です。その理由は、切なさと大人の恋愛観が静かに共存する歌詞の世界と、高橋さんの声が生み出す深い情感にあります。この曲に描かれるのは、若さの勢いではなく、歳月を重ねたからこそ滲み出る後悔や諦念であり、「ごめんね」という一言には、相手を思いやるがゆえの静かな決別が宿っています。言葉数は多くありませんが、その余白にこそ聴き手は自らの記憶を重ね、心の奥にしまってきた感情をそっと呼び起こされます。
そして、この歌詞の世界に確かな説得力を与えているのが、高橋さんの声です。透明感と深みを併せ持つ独特の響きは、張り上げることなく語りかけるように感情を伝え、わずかな震えや息遣いが、言葉にできない未練や後悔を鮮やかに浮かび上がらせます。技巧を誇示するのではなく、感情の輪郭を丁寧に描き出すその歌唱こそ、この曲が長く愛される最大の理由といえるでしょう。
派手さはありませんが、「ごめんね」は聴き終えた後に静かな余韻を残し、誰もが人生のどこかで抱える“言えなかった気持ち”をそっと照らしてくれます。だからこそ、この曲は時代が移り変わっても色褪せることなく、多くの人の心に寄り添い続けているのだと思います。
(山鳥典明カバー…男性ボーカルでございますが、何卒ご容赦ください。)
よろしければ、どうぞご視聴ください。
もう1つ、おまけの動画です。
...「詩の朗読と映像」です。
よろしければ、どうぞご視聴ください。
