計る場所によってばらつきが大きすぎるので、場所を変えた多くの枠内で重量を計り、平均重量を出します。また、季節を変えて二回調査を行い、得た値が2.5トンです。

 調査した海岸の長さが500メートルなので、2.5トンを500メートルで割って、日本の海岸線長である3万5000キロメートルを掛けると30万トン弱です。この数値は上限値といったところで、日本の海岸に漂着するごみの重量は10万トンが一つの目安になります。

 2年半の調査により、海岸漂着ごみが海岸に留まる平均滞留時間、すなわち、海岸に打ち上がってのち、海に戻るまでの期間は約半年です。

 海洋ごみは個数比にして7割はプラスチックごみです。海洋ごみ問題とは、すなわち海洋に漏れ出た廃棄プラスチック問題なのです。日本では年間で約1000万トンのプラスチック製品が生み出されると共に、年間で約900万トンが廃棄されています。廃棄されたプラスチックのほとんどは焼却や埋め立て、あるいは再生利用に回され適正に処理されていますが、それでも年間約14万トンのプラスチックゴミが、環境中に漏れているといいます。これは、日本のすべての海岸に漂着した海洋ごみの総量に匹敵します。決して少ない量ではありません。

 実験結果が示唆する通り、プラスチックごみは川を経て海にやって来ます。街で不用意に捨てられたプラスチックごみは、最初は街中の小さな川に入って、そして大きな川に合流し、最後は海に出ていくのでしょう。街と海は川でつながっているのです。

プラスチックごみの何が問題か

「海に流出、漂着したごみが景観を損ねる」、「動物たちがプラスチックごみを誤食する」、「プラスチックのネットや袋が生物に絡まる」などは分り易いプラスチックごみの問題ですが、他にも大きな問題があります。

汚染物質の付着

海水中にはPCBなどごく微量の有害物質が存在しています。通常の濃度であれば生物たちに影響を及ぼしませんが、海洋プラスチックごみは油と似た性質のPCBのような有害物質を吸着しやすい性質があり、ごみの表面で有害物質が濃縮されることが分かっています。有害物質を濃縮したごみを海洋生物たちが誤食することで体内に蓄積し、少なからず生態系に影響を及ぼしている可能性があります。

添加物

プラスチックには、劣化防止や着色、加工性や機能性を付与するために種々の化合物が添加されています。これらの化合物には人体に有害なものが多くあります。近年は安全性が厳しく管理されるようになったため、有害な添加物が配合されることはほとんどなくなりました。

過去には安全性よりも機能性を重視していた時代もあり、国によっても考え方が違います。プラスチックごみは海流と風に乗って、容易に国境を越えます。そのような時代のプラスチック製品が今ではごみとして海を漂っています。海洋ごみは時代を越えて影響が残り続けるのです。

海岸に漂着したプラスチックごみは、紫外線にさらされ、酸素や水に触れて、次第に劣化していきます。半年も海岸に放置すれば、波にもまれ、砂と擦れて、微細なプラスチック片になって(微細片化)いくようです。微細片化が始まるまでの半年という期間は、不思議なことにプラスチックごみが海岸に留まる期間と同じなのです。

 

深さが10メートルや100メートルを漂うマイクロプラスチックの採取技術は確立されていません。また、世界のほとんどの研究者が使う網は、眼あいが0.3ミリメートルです。数十マイクロメートルより小さなマイクロプラスチックも海に漂っているかも知れませんが採取は不可能です。

 海底の泥や魚など海洋生物の体内からマイクロプラスチックが検出されていますが、海底泥や生物を大量に採取することは不可能です。

 海に出たプラスチックごみは、次第に細かく砕けて、目立たなくなっていきます。しかし、決して消えるわけではありません。細かくなるにつれて海に浮かぶマイクロプラスチックは数を増やすはずです。

マイクロプラスチックの何が問題か

マイクロプラスチックが懸念される理由の一つは、「汚染物質の摂取」です。

汚染物質がプラスチック表面に濃縮することは先に説明しましたが、マイクロプラスチックのようにサイズが小さくなると、小魚や貝など比較的小さな生物も誤食するようになり、広い範囲の生態系に影響が及ぶと懸念されています。生物実験においては、マイクロプラスチックを摂取したメダカに肝機能障害が出たなどの報告があります。

マイクロプラスチックが懸念されるもう一つの理由は、「粒子毒性」です。

生物は食べることにエネルギーを消費します。生物が命をつなぐには、消費した分以上のエネルギーを食物からとる必要があります。マイクロプラスチックは幅広い種類の生物に誤食されています。糧にもならないプラスチックを摂取するエネルギーの無駄遣いは、余裕のない小さな生物ほど、大きな負担になるでしょう。この負担を、マイクロプラスチックの「粒子毒性」といいます。動物プランクトンや貝類、ゴカイや魚類などに、マイクロビーズを餌代わりに与え続ける実験では、成長の鈍化や、死亡率の上昇、あるいは運動量や繁殖力の低下など、多くの障害を生物にもたらすことが判りました。更にマイクロプラスチックの表面に汚染物質まで吸着されているとすれば、生態系への影響が懸念されるは当然のことと言えるでしょう。

私たちにできること

 しっかりと分別して、またプラスチックごみの収集や処理のシステムが整っている日本では、廃棄プラスチックの99パーセントが適正に処理されています。それでも年間に廃棄される900万トンのうち、10万トン強のプラスチックごみが環境中に流出しているのです。

海洋プラスチック汚染の本質は、焼却や再利用、あるいは埋め立てといった処理方法の選択ではありません。どの処理経路にも乗らず環境中に漏れた1パーセントが問題なのです。

私たちは、プラスチックごみは環境中に漏れるもの、との前提に立つ必要があります。環境中に漏れるごみを減らすには、社会に出回るプラスチックの総量を、なかでも使い捨てプラスチック製品を減らすほかありません。一人一人の出すプラスチックごみが積み上がって、いまの大きな環境問題になっています。そうであればエコバックやマイボトルの使用など、一人一人の取り組みが積み上がって、大きな力となる道理です。

 最後に、海岸で清掃活動を続けるNPOや地域の方々に贈る言葉です。マイクロプラスチック一粒の重さは、サイズを1ミリメートルの円柱として高さ0.1ミリメートルとし、比重1とすれば、約0.1ミリグラムです。いま北太平洋には、1平方キロメートルあたり平均して10万個のマイクロプラスチックが浮いています。一粒が0.1ミリグラムなら、合せて10グラムほどです。海岸で清掃は、いつ終わるとも知れない大変な作業です。ここで、海岸で10グラムのプラスチックごみを拾ったとしましょう。ペットボトル半分程度の量です。しかし重量を考えれば、北太平洋で1キロメートル四方に浮かぶマイクロプラスチックを、一気に回収するのと同じです。そう考えれば何だか雄大ではありませんか。

                                          (by umi-bugyou)