2016年に京都工芸繊維大学の研究チームが大阪府堺市のリサイクル工場で採取したサンプルから発見した微生物が、ペットボトルなどに使われるポリエチレンテレフタレート(PET)を分解して栄養源として増殖していることが判明。「イデオネラ・サカイエンシスIdeonella sakaiensis )201―F6株」と名付けられました。分解はこの微生物が持つ酵素(PETase)で、この微生物・酵素を増やすことが出来ればプラスチックを減らす救世主になるのではと世界的なニュースになり、多くの科学者が研究に取組みました。では、現在どうなっているのでしょうか。これより前に見つかった微生物(細菌)はまだ実用化(産業ベース)段階には至っていないようです。

 2000年にカナダの高校生がポリエチレンをムシャムシャ食べる微生物(緑膿菌)を発見した。醗酵槽と培地、それにプラスチックがあれば、細菌は、プラスチックを食べて熱を発し、必要なエネルギーのほとんどを自らに供給する。副産物も、水と少量の二酸化炭素が出るだけだ。従って、この発見を産業レベルに採り入れるのは簡単なはずだと言われていたが、その後の話は聞かない。

 2004年にはアイルランドのユニバーシティ・カレッジ・ダブリンの研究者らが毒性を持つ廃棄物(スチレン)をPHAと呼ばれる安全な生分解性プラスチックに換える細菌の分離に成功したと発表した。研究者の一人オコーナー博士は「現時点では小規模の取り組みだが、処理プロセスを大規模にしていくため、実用化に向けた発酵試験に着手している」と話していたが、その後のニュースはない。

 2018年、英ポーツマス大学と米国立再生可能エネルギー研究所の共同チームが、日本の科学者チームが発見したPETを「食べる」細菌から生成される酵素PETaseの構造を研究する過程で偶然、PETをより強力に分解する新種の酵素が検出されたという。新たな酵素にはPETだけでなく、PETに代わるバイオ由来の新素材、ポリエチレンフランジカルボキシレート(PEF)を分解する能力があることも分かった。PEFはPETのように石油からではなく、バイオ原料から合成されるが、ごみとして捨てられた後に自然の状態ではほとんど分解されず、残ってしまうことに変わりはないという。

画像提供,DENNIS SCHROEDER/NREL

画像説明,PETase(緑)がプラスチック(灰色)を分解していく様子を電子顕微鏡がとらえた

 石油から工業的に作られるポリエステルは、ペットボトルから衣服まで幅広く使用されています。現行のリサイクル工程の結果、ポリエステル素材は徐々に劣化します。ペットボトルがフリースになり、じゅうたんになり、最後には埋立地へと送られます。

 一方で、PETaseを使う場合の変化は劣化ではなく、ポリエステルの製造工程を原材料段階まで逆行することになります。そのため、素材は再利用が可能となります。「ポリエステルを素材まで戻せば、その素材はまたプラスチック製造に使えるようになる。と同時に、石油の利用を減らすことができるかもしれません。そして、我々はリサイクルの輪を閉じることになります。本当の意味でのリサイクルの実現です」と英ポーツマス大学のマギーハン教授は説明する。PETaseの大規模な利用が可能になるには、まだ数年かかる見通しです。大規模なリサイクル過程の一環として経済性を獲得するには、現状で数日かかるPET分解の速度を加速させる必要があります。

 マギーハン教授は、「これがプラスチック管理の転換点の始まりになると期待している。一刻も早く、埋立地や自然界に到達するプラスチックの量を抑える必要がある。PETaseを使った技術を活用できるようになれば、将来的にひとつの解決策になる。プラスチックという『魔法の素材』を生み出した科学界は今こそ、あらゆる技術を駆使して真の解決策を編み出さなければならない」と強調しました。

 微生物の働きで分子レベルまで分解され、最終的には二酸化炭素と水になって自然界へと戻る「生分解性プラスチック」が使われるようになってきました。しかし、石油由来のプラスチックと見た目が似ていることから正しく分別されず、結局はゴミ埋立地に行き着いてしまうことや、分解に時間がかかるなどの課題が多く残されています。そんななかカリフォルニア大学の研究所が世界初となる、“プラスチックを食べる酵素”が含まれた堆肥可能なプラスチックを発明しました。つまりこれは、人の手を借りることなく、プラスチックが自身を分解して自然に戻ることを意味します。自然に堆肥化されるプラスチックが実用化すれば、自然への負担はきっと軽くなるでしょう。

 イデオネラ・サカイエンシス以外にもプラスチックを食べる多くの微生物が発見されています。2020年にはアメリカの研究チームが、この微生物よりも6倍速く分解可能な酵素を発見した、と発表しています。そして2021年、スウェーデンの研究チームが、地球上に少なくとも10種類のプラスチックを分解できる3万種類の酵素が存在するとの報告書を出しました。

 今年1月、東京大学の岩田忠久教授らは海洋研究開発機構などと共同で、生分解性プラスチックは水深5000メートルを超える深海でも分解されるとの実験結果を発表しました。プラを分解する微生物が深海にも生息していたといいます。深海に置いていた18種類の生分解性プラを調べたところ、ほとんどの生分解性プラの表面に無数の分解する酵素を持つ微生物が付着していたとのことです。見つかった微生物は、世界各地の海底堆積物に存在するとのことで、プラスチック海洋汚染の解決につながると期待できます。

 また今年1月、スイスのアルプス山脈でプラスチックを食べる菌類が発見された。学術誌に掲載された研究によると、この微生物はPUR(ポリウレタン)、PBAT(ポリブチレンアジペートテレフタレート)、PLA(ポリラクチド)という3種類のプラスチックを消化できるとのこと。

 つい最近の5月1日付のnature asiaの情報ではプラスチック分解細菌の一種である枯草菌の胞子をプラスチックに組み込むという方法によって、生分解性の工業用熱可塑性ポリウレタンを開発したとのこと。このポリウレタンを模擬環境で廃棄する実験では、ポリウレタンが堆肥中の特定の栄養素へ曝露されることが引き金となって、ポリウレタンの急速な生分解が起こり、5カ月間で90%以上のポリウレタンが生分解されることが明らかになった。また、このポリウレタンの靭性は、通常の熱可塑性ポリウレタンと比べて約37%向上したとのことです。細菌の胞子が組み込まれたポリウレタンは環境保護の観点から有望であり、機械的に強靭で、分解が速いため、従来のリサイクルできない熱可塑性ポリウレタンの代替品となり得るという見解を示しています。

 世界中で研究が進められる中、いまだにプラスチックを分解したり食べたりする微生物や酵素が商業化されないのは、なぜなのでしょう。「理由のひとつが、コストや手間の問題。そしてもうひとつが、そうした微生物や酵素を増やすことにより、既存の微生物への悪影響、さらに異なる環境下で微生物が効果を発揮できるのか、などの疑問点があるからです。今後の研究によってそれがクリアされれば、商業化が進むことは間違いないでしょう」とある科学ジャーナリストが言っています。

 以前ラ・メールのブログでも紹介したカネカが開発した「カネカ生分解性ポリマーPHBH」は、食用油などの植物油脂を原料として微生物の体内にポリマーが蓄積され、有機溶剤を使わないプロセスで形成されて製品化に至る。また、一般的なプラスチックとは異なり、土壌や海水の中など自然環境下で二酸化炭素と水に分解されというもので、大量生産されており、すでに使い捨てのストローやナイフ、フォーク、スプーン等に採用されている。

 以上は多くの文献、ニュース、ブログ等を参考にまとめました。プラスチックを食べる細菌の実用化が、ゴミ問題の救世主となることは間違いないでしょう。だからといって、プラスチックをドンドン使ってよいということではありません。私たちは、エコバッグやマイボトルを持ち歩くとか、裸売りの野菜を選んだり、固形石鹸を使うなど出来るかぎり生活の中でプラスチックを出さないよう心掛けるべきでしょう。

(by umi-bugyou)