「国内で複数の人から採取された血液に「ナノプラスチック」と呼ばれる直径千分の1ミリ以下の極めて小さなプラスチック粒子が含まれていることが、東京農工大の高田秀重教授らのグループの分析で、3月20日までに明らかになった。このうち1人を詳しく調べると血液や腎臓、肝臓などから、プラスチックに添加する紫外線吸収剤やポリ塩化ビフェニール(PCB)という有害化学物質も見つかった。」と言う、驚くニュースが出ていました。

 高田教授はマイクロプラスチックに付いての第一人者で、ラ・メールのメンバーがプラスチック問題を勉強し始めた2018年の初めに京都のセミナーで講義を受けたことがあります。

 講義の内容を簡単に纏めると、「発泡スチロールやペットボトル、ビニール袋などのもともと大きかったプラスチックごみが、海に漂流・漂着し、時間の経過とともに紫外線や雨風によって粉々に小さくなる。また、プラスチック製の合成繊維(ポリエステルなど)を使用し、製造された洋服やスポンジからも洗濯や洗い物の際に流れ出てしまう。これらがマイクロプラスチックで、もともと色んな添加剤が含まれている上、海水中に溶けている有害化学物質を吸着する性質がある。それを魚貝類が餌と間違えて食べ、プラスチックの一部と有害化学物質の一部は身体に蓄積る。これを人が食べる。プラスチックは糞便として体外に排出されるが、有害化学物質は体内に残るおそれがある。現在は人体への影響は報告されていないが、長い間に蓄積され影響が出てくることは否定できない。」と言うものでした。

高田教授が描くマイクロプラスチック汚染(高田教授作成)

 

地球の隅々まで広がるマイクロプラスチック

2016年:東京農工大学の研究チームが東京湾で採取したカタクチイワシの8割からマイクロプラスチックを検出

2017年:京都大学の研究チームが本州各地で採取した魚の4割からマイクロプラスチックを検出

2018年:グリーンピースと韓国の仁川大学校の教授の共同企画による調査で世界の39の塩ブランドを分析した結果、サンプルの9割からマイクロプラスチックを検出

2018年:グリーンピースの南極遠征チームが水と雪のサンプルを採取から、マイクロプラスチックと有害化学物質の汚染を確認

2018年:ニューヨーク州立大学の研究チームがペットボトル入りミネラルウォーターの9割からマイクロプラスチックを検出

2018年:米ミネソタ大やニューヨーク州立大学などの研究グループが行った調査により、世界13カ国の水道水(日本の水道水は含まず)のほか欧米やアジア産の食塩、米国産のビールにマイクロプラスチックが含まれていることを確認

2019年:福岡工業大学が、同大学の屋上で採取した空気や降水中の成分からマイクロプラスチック片を確認

2020年:グリーンピースとエクセター大学の調査で、海洋食物連鎖の上位に位置するサメの3分の2がマイクロプラスチックとプラスチック繊維を含んでいることが明らかに

 

体内にプラスチック侵入

2018年:日本人含むボランティア被験者8人全員の糞便からマイクロプラスチック粒子が検出されたという調査結果が、オーストラリアで開催された胃腸病学会議で発表

2020年:アイルランドのダブリン大学トリニティ・カレッジの研究チームは、ポリプロピレン製哺乳瓶から大量のマイクロプラスチックが放出されることを発表

2020年:イタリアのサン・ジョバンニ・カリビタ・ファテベネフラテッリ病院の研究チームは、人の6つの胎盤を調べ、12個のマイクロプラスチックを検出

米学術誌Environmental Science and Technologyに掲載された研究によると、2021年:心臓手術を受けたヒトの心臓から、2022年:母乳から、2023年:精液と精巣からマイクロプラスチックが検出された

2022年:オランダのアムステルダム自由大学の研究者らが、健康なボランティア22人から提供を受けた血液サンプルより、17人(77%)の血液から、飲料ボトルでよく使われるポリエチレンテレフタレート(PET)や食品パッケージに使われるポリスチレンなどのマイクロプラスチックを検出

 

環境ホルモンによる人体への影響

海水中に漂うマイクロプラスチックから検出された環境ホルモン

 環境ホルモンとは、本来ヒトのホルモンと構造の一部が似た形をもつ化学物質です。ホルモンによる信号を受け取る器官である『受容体』にあたかもホルモンのように結合します。ホルモンのバランスを崩し、からだの健康を保つ働きを邪魔して生殖機能・甲状腺機能・脳神経などに重大な影響を及ぼします。内分泌系に作用するため『内分泌かく乱物質』とも呼ばれています。

 プラスチックそのもの並びにマイクロプラスチックに吸着した環境ホルモンによる人への影響は明らかにはなってはいないものの、ヒトの細胞の室内実験では影響があるという研究結果がでています。

 女性…乳がん・子宮内膜症の増加

 プラスチックから溶け出したノニルフェノールによって乳がん細胞が増殖

 男性…生殖機能低下

 精子数の減少・精子の濃度低下

 胎児…発育異常・知能への影響

環境ホルモンは発育初期に大きく関係するため、海(水)中に残留したPCB(ポリ塩化ビフェニル)は知能への影響があるといわれている。

 

まとめ

高田教授は「プラスチックの微粒子が有害化学物質を体内に運び込んでいる」と指摘。検出量はわずかで直ちに影響が出るレベルではないとしつつも「摂取量が増えたり長期間蓄積したりすれば、生殖作用などに影響を与えることが懸念される」と話されています。

   マイクロプラスチックの影響は未知な部分が大きいですが、長期的には問題になることは明白。私たちの子どもや孫、その子孫のためにもプラスチック汚染を食い止めることが必要です。

プラスチック汚染を食い止めるには、使い捨てのプラスチックを購入・使用しないなど一人ひとりの消費者が努力することは勿論ですが、そもそも作られるプラスチックを大幅に減らし、繰り返し使えるパッケージや包装のいらない販売・流通を確立することが必要だと思います。そのために政府も「プラスチック資源循環促進法」を施行したから終りではなく、自治体と共にどうすればプラスチックを大幅に減らすことができるかを考えるべきでしょう。

                                           (by umi-bugyou