世界では年間4億トンほどのプラスチックが生産され、日本の生産量は1000万トン程度です。最大の用途は包装用途(36%)でほとんどが使い捨てにされ、プラスチックごみとなっています。そして世界では800万トンのプラスチックごみが海に流れ込んでいると推定されています。生分解しないプラスチックが海水中に蓄積され続け、2050年には魚の総重量を超えるだろうとまで言われています。プラスチックごみを燃やして発生する二酸化炭素による地球温暖化も併せて、プラスチックごみによる環境汚染の防止は、世界の喫緊の課題になっています。

 

 日本では環境省が2019年5月に「プラスチック資源循環戦略」を策定しました。重点戦略は基本原則として「3R+Renewable」ですが、マイルストーンの1つに 2030年までにバイオマスプラスチックを約200万トン導入する を掲げています。

 

 バイオマスプラスチックが200万トンとはかなりの量なので現状はどうなのか知りたいと思っていたところ、ラ・メールのグループメンバーから 地球環境と産業化研究会(SGEIS)主催の講演会「カネカ生分解性バイオポリマー Green Planet®」 があると聞いて参加してきました。概要を報告します。講演者は株式会社カネカ Global Open Innovation 企画部 福田竜司氏です。

 

Ⅰ.バイオマスプラスチック とは

 COと水を原料に光合成によって作られる有機資源(トウモロコシ、サトウキビ等)を原料に作られるので、再生可能であり燃やしてもCOが増加しないのがバイオマスプラスチックです。さらに埋立などで自然界に留置された時、微生物により生分解され最終的にはCOと水になるのが生分解性バイオマスプラスチックです。カネカGreen Planet®がこれにあたり、他にPLA(ポリ乳酸)や澱粉系プラスチックなどがあります。

 

Ⅱ.カネカGreen Planet®とは

 カネカは微生物を利用した培養技術を有しているので、植物油(パームヤシ油)を取り込み樹脂として体内に蓄える性質を持つ微生物を見つけ出して培養し、精製、後処理して取り出したのがGreen Planet®です。その仕組みは動物などが体内に脂肪をため込むのと似ています。

〇 Green Planetの生分解

 Green Planetの生分解性を試験するため30℃の土中に埋め込みました。ポリプロピレン(PP)製や木製のものと比較したところ、Green Planet製は3か月で形が崩れ始め5か月後にはほとんど原形を失いました。PP製は5か月後でも全く変化がありませんでした。

この性質は農業資材で活用できます。苗類を育苗ポットから取り出さずに植え込め、保温や雑草予防に畝を覆うマルチフィルムを使用後にそのまま土にすき込めるからです。

Green Planetの海水中での分解

 石油系のプラスチックは海水中でどの程度の時間で分解するか時間がかかりすぎて不明ですが、Green Planetは23℃の海水中で90~120日後に形が崩れ始めていました。

 

〇 Green Planetの取得認証

 生分解プラスチックは堆肥化条件下では温度が高いほど生分解が早く、自然環境下では土壌中より海水中での分解が遅く認証取得が困難です。カネカのGreen Planetは日本、欧州、米国の制度のある条件下では全て認証取得していて、かつ食品接触材料としても登録されています。

〇 Green Planetによる汎用プラスチックの代替例

Green Planet®は加工・成形メーカーとの共同開発などで成型技術が格段に進歩し、汎用プラスチックのコストに近づきつつあります。そしてストローとして伊藤園の紙パック「おーいお茶」などに採用が進んでいます。

 

〇 Green Planetごみ袋によるコンポスト化/バイオガス化

 日本ではまだ生ごみのコンポスト化を採用している自治体は少ないのですが、Green Planetのごみ袋を使用すればそのままコンポストで堆肥化したり、メタン発酵させてバイオガス化できるのです。従来の様に生ごみを燃えるごみと一緒に燃やすには灯油などの助燃剤が必要です。CO削減のためにも生ごみの分別利用は進めるべきと思います。

 

〇 Green Planetの開発・普及のロードマップと能力増強構想

 Green Planet®で置き換えられる使い捨てプラスチックは全世界で2千5百万トンあると推定されます。まず目指すはストロー、カトラリー、ショッピングバッグ、コーヒーカプセルなどの分野で5百万トンと推定されます。

カネカGreen Planetはまず150億円を投資して1万5千トン/年設備を2024年1月に稼働させ、2025年までに2万~5万トンまで生産能力を引き上げ、さらに2030年までに10万~20万トン設備に増強し、2千億円程度の売上を目指すそうです。

 

Ⅲ.残された課題

 環境省の目指す2030年までにバイオマスプラスチック200万トン導入はカネカGreen Planet®だけでは足りません。PLA(ポリ乳酸)や澱粉系のプラスチックも必要で、社会実装が待たれます。

 

 バイオマスプラスチックの生産量が増えると、原料のバイオマスの確保も食料問題にならないような対策が必要です。Green Planetは現在パームやし油を原料としていますが、カネカではマーガリンの原料にも大量に使用しています。カネカでは現在使用済みのてんぷら油や、油種作物の国内栽培も検討中だそうです。                          by auf