新型コロナの流行下、人々の楽しみのひとつの旅行は国内であっても、制限されマイクロツーリズムが提唱される昨今です。まして海外旅行は各国ともまだ制限されていますが、新型コロナ終息後は、以前のように世界中の人々が海外旅行を楽しむようになると思います。その中でも優雅な旅を味わう豪華客船によるクルーズはコロナ後も人気の旅行ではないでしょうか。その豪華クルーズ船が引き起こしている海洋汚染をご存知でしょうか。 2020年のForbes(フォーブス)とNewSphere(ニュースフィア)の記事から豪華クルーズ船が引き起こしている環境汚染についてレポートします。

 

 

◆クルーズ船のゴミ捨て場? アラスカの町の苦悩
 アラスカで最も美しいと言われる町ジュノーは、人口約3万人のアメリカで最も隔絶された州都で、山と海に囲まれ、市外に通じる道路も鉄道もなく、迷路のように絡み合った狭い路地に住宅や店舗、歴史的建造物が並んでいます。観光業が盛んで、水辺では漁船や水上飛行機と並んでクルーズ船が見られます。

 この小さな町のゴミ処分場に、2019年夏の観光シーズン中、1500トン以上のゴミがクルーズ船会社から持ち込まれました。寝具、椅子、家具、スロットマシーンなど、さまざまなゴミが捨てられました。プリンセス・クルーズとホーランド・アメリカラインの陸上業務担当者によれば、大気汚染防止のため、近年多くのクルーズ船に、排気から汚染物質を出さないための装置が取り付けられ設置スペースを作るため、船内の焼却炉が撤去され、それが陸に上げられるゴミの増加につながっているとの事です。

 住民は外からのゴミの持ち込みに懸念を示していますが、実はゴミ処理場はテキサス州の民間企業が経営しており、町がゴミに関する規制をすることはできません。クルーズ船からのゴミは、町から出る年間のゴミの5%ほどで、この処分場はあと20年でいっぱいになるとされています。新しい処分場を造るだけのスペースは町にはありません。

 

◆繰り返される不法投棄 

 クルーズ船による海洋汚染も問題になっています。ダイヤモンド・プリンセル号を所有するプリセスクルーズなど10のクルーズ船ブランドを傘下に持つカーニバル・コーポレーションは世界最大のクルーズ船運営会社です。新型コロナ流行前は年間115万人の利用があり、世界のクルーズ船市場の半分を占めていました。新型コロナの世界的な流行のため、大幅に経営が悪化し、倒産するかと心配されましたが、2021年7月にクルーズの一部を再開させ、2022年の夏までに完全運航に戻す予定で、すでに予約も伸びており、2021年第2四半期で前年同期比45%増となっています。

 そのカーニバル・コーポレーションですが、長年に渡り意図的に油で汚染された廃棄物を海洋投棄し、それを隠蔽した罪で2017年に有罪判決を受け、米司法省から4000万ドル(約44億円)の支払いを命じられています。罰金を支払い、保護観察処分となりましたが、2019年にはプラスチック海洋投棄が発覚し、さらに2000万ドル(約22億円)の罰金支払いを命じられました。

 不法投棄は船舶による汚染防止のための国際条約であるマルポール条約違反ですが、ほかの会社も普段から行っていると、クルーズ業界の専門家、ロス・クライン氏は指摘しています。同氏のデータベースでは、メディアや公文書で報告された違反が記録されており、排せつ物や、浴室、洗濯場、調理場から出る未処理の汚水廃棄を含む多数の違反が見られます。

 

◆罰金では懲りないのか?

 クルーズ船の環境汚染は、小さな国々にとっても深刻なものです。多くのクルーズ船が寄港するバハマでは、以前からクルーズ船からの不法投棄が確認されていましたが、政府は効果的な防止策を打ち出せず、環境保護法が救世主になるはずでしたが、それによる数百万ドルの罰金など、巨大企業にとっては、微々たるものだと地元の環境活動家のサム・ダンクーム氏は話しています。ちなみにカーニバル社の2018年の収益は188億ドル(約2兆円)でした。2000万ドルの罰金なら0.1%、4000万ドルでも0.2%程度で、当時のカーニバル社にとってはあまりに軽い罰金です。

 新型コロナの終息を見越して、クルーズ船の運航再開が準備され、以前にまして利用客は増えそうです。その時、今のままでは環境汚染はさらに進んでしまいます。海を汚染しながらの旅はいくら豪華客船の旅でも少しも楽しめないと思います。

 

 「今後、環境保護に全力を尽くし、我々が暮らし、働き、旅をする海の環境を守っていくことを誓う」とカーニバルの代表者はメディアの取材に応えています。海洋の環境保護のためには、企業に任せるだけではなく、マルポール条約に基づく定期的、組織的な監視の実施や罰金額を上げる等の対策が必要です。そして私たち利用者が出来る事がひとつあります。海の環境を守るクルーズ会社を選ぶことです。環境保護をしながらの旅行がこれからのスタンダードになって欲しいものです。コロナが終息し早く旅行を楽しめる日が来ることを願っています。

 

(by strawberry-dew)