生ゴミは、庭に埋めておいてもいつかは腐って無くなるけれど、プラスチックは、埋めておいても腐りません。腐らないで残ってしまうということは、プラスチックの利点のひとつですが、環境にとっては大変困ったことで、何一つ良いことはありません。
それなら、消えて無くなってしまうプラスチックがあればいい・・・。 そこで、開発されたのが通常のプラスチックと同様に使うことができ、使用後は自然界に存在する微生物の働きによって分解し、最終的に水と二酸化炭素に分解される環境循環型のプラスチック=「生分解性プラスチック」が開発され、プラスチックを含む廃棄物処理問題の解決につながると期待されています。
生分解性プラスチックの環境配慮型利点から普及に異を唱える声は少ないが、果たして盲目的に信頼し支持してよいものだろうか?
この視点で、生分解性プラスチックの現状と問題点、その普及に伴う社会的影響、望ましい生分解性プラスチックのあり方について以下に概説します。
1)生分解プラスチックの現状と問題点
①既存のプラスチックより高い製造コストがかかる
■材料費として既存プラスチックの3倍以上で、成形加工についても従来プラの常識が必
ずしも通用せず、歩留まりの悪さを抱えています。
■製品になっても多くは5倍以上となってしまうのが普通です。
■価格的に現状の生分解性プラスチックが不利なことは否めません。
②既存プラスチックの利点であった耐久性、機能性に劣る
■生分解性や光分解性というのは分子的な結合力が科学的に高いか低いかです。
分解性が高いというのは結合力が弱い、つまり使用中や保管中に容易に変質・劣化し
てしまい使用不能となる可能性があります。
■また、使い捨てを前提にしたものであるため、リユースには不向きですし、リサイクルす
るにしても途中での熱処理等で変質する為、これも難しいのです。
③微生物によって分解させるので、分解にどのくらいかかるか分からない
■生分解性は土に埋められた後の条件(土壌の質・量・埋設後の攪拌の有無等々)で大
き く左右されます。
■相当整った条件でないと、生分解が完了して完全に土に返るまで、長期間(10年以上)
も 掛かることもあります。
■寧ろ、普通のプラ製品をリサイクル資源として活用した方が、生分解プラスチックを使
い 捨てして埋め立て処分するよりも、環境負荷が小さくなるという評価もあります。
④環境負荷が低減されるのか
■生分解プラスチックは環境に「やさしい」という宣伝文句で普及を図ってきています
が・・・ 循環資源研究所によれば、廃棄された生分解性プラスチックは「埋立地で一気
に水と炭 酸ガスにまで分解されるわけではない。生物分解(腐敗)過程からは中間生
成物である水溶性の汚染物質が生成し、これが埋立地の浸出汚水を増加させたり、メ
タンや硫化 水素などのガスが発生する」とも述べています。
■適正なリサイクルルートが確保されない限り環境への負荷は低減することは「ない」と
言えます。
⑤生分解性プラスチックの表示制度は有効に機能しているか
■国内の生分解性プラスチックの表示制度には「グリーンプラマ ーク」がありますが、ほ
とんどが不燃ごみとして埋め立てられる か、焼却処分されています。
■リサイクルルートの受け皿はなくシステム整備も立ち遅れていま す。
■生分解性プラスチックは、廃棄した際に自然に戻ることを最大 のメリットとしているはず
ですが、実際の製品には「グリーンプラ マーク」が標記されていない、または目立つ方
法がとられてい ないものもあります。
■消費者にとってはマークそのものの存在すら周知されていないのではないでしょうか。
2)生分解プラスチックの普及に伴う社会的影響
①的確な情報提供
■生分解性プラスチックは強固なプラスチックが容易に分解される点は強調するが、価
格 高以外のデメリットや課題などについての情報を目にすることはほとんどありません。
■生分解性プラスチックの原料は幾種もあり、植物だけでなく石油原料も多く出回ってい
る 事実が消費者に知らされることはありません。
■消費者が生分解性プラスチックを手にしても、従来のプラスチックとの見分けがつかず、
結局通常のプラスチック製品と同様に処理・処分をするしか手がないのが現状です。
■生分解性プラスチックとどう付き合ったらよいのか、伝えるべき情報をわかりやすく伝え
る工夫が必要です。
②類似粗悪品への対応
■生分解性プラスチックを装う粗悪品の流通が、プラスチックをばらばらにして、環境汚染
の被害を広げてしまうおそれは否めません。
■また、現状ではこのような粗悪品を排除する態勢も法制度もありません。
③生態系への影響
■石油などの化石燃料がやがて枯渇することから、持続可能な資源確保の一つとして、
毎年栽培できる作物を原料にしようと開発を進めてきており、大量生産が始まれば、
大地や水資源を収奪する大規模栽培が行われる恐れがあります。
■生態系への配慮が必要との視点からプラスチック生産用遺伝子組み換え作物の開発
動向も気がかりです。
④使い捨て社会の助長
■生分解性プラスチック製品群にはレジ袋や包装材などがあり、どちらかといえば使い捨
て商品に用いられるケースが多数見受けられます。
■生分解性プラスチックの「自然に還る」がかえって免罪符となり、「使い捨て」製品を容
認 する傾向だけは避けなくてはなりません。
3)望ましい生分解性プラスチックのあり方
生分解性プラスチックは環境配慮型の理想的なプラスチックとして開発されてきました。
しかし、植物由来のプラスチックをいかに効率よく作り、どう分解させるかのみに腐心すれば
かえって環境に影響を及ぼしかねない事実も明らかです。
「NPO法人グリーンコンシューマー東京ネット」の研究では、生分解性プラスチックが環境配
慮型社会に役立てうるための視点として次の項目を挙げています。
● 大量生産・大量消費を前提にしないこと。
● 主原料は、石油を用いないで、生物由来であること。
● 原料には遺伝子組み換え作物は使用しないこと。
● 製造段階での添加剤は最小限にし、生分解性であり、分解代謝物の安全性も確認さ
れて いること。
● 特定元素などの有害物質の存在は、水質基準や食品の残留基準並みとすること。
● 表示制度もわかりやすいものとし、リサイクルマークも「生分解性プラスチック」である
との標記や消費期限などの情報が明記されていること。
4)おわりに
以上に見てきたように生分解性プラスチックには、大いなる利点がある反面乗り越えねばならない欠点もあり、環境を守りながら未来世代にバトンタッチするため、新しい技術の開発・普及を否定するのではなく、推進する工夫と努力を怠ってはならないと感じます。
市民運動、自治体の取組みなどによって、ごみ減量やリサイクルの取組みが進められ、使い捨て社会を見直す流れが築かれつつありますが、現状、プラスチックの利便性からその生産量・消費量は年々増大の傾向にあります。
このプラスチック依存の社会体質を変えるためには焼却やリサイクルだけでは解決しません。リフューズ(やめる)>リデュース(減らす)>リユース(再使用)の3Rを実践することが重要です。環境先進国のヨーロッパ諸国では、日本の昭和に見られた食品他の「裸売り」「量り売り」手法や各種法制化でプラスチックの包装や容器などの使用を抑制しています。
少し不便を感じますが、私達も昭和レトロを楽しんでみませんか!!
by 海士人