わたしは戦場で小隊を率いていた。黒い革の長靴を履き、瓦礫と廃墟になったビルに囲まれ薄暗い最前線で攻撃を指揮していた。長いこと膠着していた戦況が乱れ、わずかだがわたしたちが敵を押しはじめていた。わたしは全軍に前進の合図をだす。大声で号令をかけているが、当のわたしは誰が味方で、何人の隊を率いているのかあまりよくわかっていなかった。わたしは戦場にいるというのに、何故だか武器を何も身に付けていなかった。
突然背後から襲われる。すごい力で抑えられ、殴られたような衝撃であっという間に少しも身動きが取れなくなる。かろうじて立っているが、強く押さえつけられて足を動かすこともできない。見えない敵はわたしを後ろから強く羽交い絞めにし、白い錠剤を二つ口に滑り込ませた。口と鼻を塞がれ首を絞められて、わたしは衝動的にそれを飲み込む。狼狽で視界が歪んだ。
味方はすぐ側にいるはずで、こちらに気付かないわけはないのに、誰も手を出さない。相手の手が顎の下にあったので、力一杯噛みつくと、汚れた手から血の玉がういて、じきに流れ落ちた。短い呻き声があがり、その声の主が男だとわかる。緑色の硬い軍服の上から力一杯心臓に爪を立てられ息が詰まる。何分、何十分そうして揉み合っていたか、手足がしびれ、頭がぼんやりして考えがまとまらなくなってくる。身体から力が抜けて目が重くなる。暗くて見渡せない空に、遠くの爆発で閃光が走っている。浅い呼吸の音が自分のものか背後の敵のものかわからなくなってくる。押さえ込まれた格好のまま地面を見て、虚ろに目を開けたままわたしは眠りに落ちる。
JDS、今日で88歳になる。