音楽が始まる。

重い鐘の音。

うつ向いていた姿から、前を向き、両手を拡げて始まり出す。

彼女のラストダンス。

重い曲調に載せて、音楽に合わせて滑り出し、最初のジャンプがトリプルアクセル。

固唾をのんで見守る。

青い衣装に身をまとい、彼女は飛んだ。

振り付け師のタラソワが、幸せの青い鳥をイメージして、衣装を贈ったそうだ。

さぁ!綺麗なトリプルアクセル!

成功!

次は3-3

トリプルフリップとトリプルループだ。

誰より難しい種類の組み合わせのジャンプ!

綺麗に決めた!

次はトリプルルッツ

OK!

ここまでで、4種類のトリプルジャンプを決めた!


そして、スピンに入る。

曲調が代わり、はっと前を微笑んで向く彼女。

また次のジャンプに向けて音楽が重くなる。

2-3のジャンプ

ダブルアクセルとトリプルトーループ。

決めた!

セカンドジャンプにトリプルジャンプを組み合わせている。

この組み合わせは、前半の3-3と数えて、2本目だ。
ちなみにヨナは、セカンドジャンプに3回転ジャンプは1つだけだ。

これだけでも、どれだけ真央ちゃんが難しい事をしているか分かるってもんだ。
アナウンサーが言う。

「5種類目」

次は、トリプルサルコウ。
「6種類目」

次々と決めて行く。

ここで、全種類のトリプルジャンプを決めた!

次に、3回の連続ジャンプ。
トリプルフリップとダブルループとダブルループ。

3-2-2の組み合わせ。

何度も言うが、ヨナは
2-2-2の組み合わせだ。
6種類8つのトリプルジャンプを出来るのは3Aを飛べる人だけだ。

五輪での入賞者は一人を除いて、5種類7つのトリプルジャンプ。

その1人というのはヨナ。彼女は4種類6つのトリプルジャンプだ。

技術面で見ても劣るのに、彼女の技術点は真央ちゃんの完璧なフリーの演技より上だった。

この点数等は、また後日述べたいと思う。

さぁ、話を戻して、真央ちゃんの偉業を語りたい。

最後のトリプルジャンプはトリプルループ。

8つのトリプルジャンプを全て決めた!

私は、彼女がジャンプを決めるたび、涙が込み上げてきた。

そして、最後のステップ。
渾身の、最後の力を振り絞って、怒涛のごとく駆け抜ける!


あっという間の4分間だった。

最後に彼女は天を見上げて泣いた。

真央ちゃんが泣くなんて珍しかった。

そして次の瞬間微笑んだ。
涙を流し、微笑みながら手を振った。

私も泣いていた。

心を打つドラマだった。

昨日は絶望したのに、今日は歓喜だ。

技術点73、03
演技構成点69、68
合計142、71
シーズンベスト!

SPと合わせて、198点
真央ちゃんは16位から6位まで上がってきた。

フリーだけなら、3位。
(1位はソトニコワ、2位はヨナ。そんなばかなって思うし、この真央ちゃんの点数は、実は全日本選手権の鈴木選手より低いのだ。全くあり得ない。演技構成点も8点台ばかりだ。9点台出してもおかしくないのに!)

さて残念ながら、メダルには届かなかった。

だが、メダルよりも点数よりも、価値があるものを示してくれた。

誰しもが、勝者にはなれない。

負ける人、人生では幾多の困難や挫折がある。

その中でも、あきらめないこと。

そうするなら、名誉や地位よりも、お金では買えない大切なものが得られる、
人々からの愛情を得られる事が分かったのだ。

中国の解説者が、他者は採点者を征服し、真央は観客を征服した。と言っていたそうだ。

記録よりも記憶に残る演技だとも、言っていた。

フィギュアスケートを愛する人ならみな、感動したに違いない。


ロシアのタラソワもロシアテレビで解説をしながら、途中立ち上がり、拍手と涙を流した。

ありがとう。ありがとう。と言いながら…


幸せの青い鳥は、

本当の幸せを、

この日

手に入れたのだと思う。

16位の真央ちゃんは、最終グループより二つ前のグループで滑る。

ヨナは最終グループの最終滑走。

前日と立場が逆だ。

本来なら、最終グループに入っているべき人。

この状況に胸が痛む。

6分間練習が始まった。

3Aを決めた。

見ている私は、息を飲んで見守っている。

昨日も、練習では飛べていた。

6分間練習が終わった。

真央ちゃんは、このグループの最終滑走者だ。

ドキドキしながら真央ちゃんの出番を待つ。

ついに、その時が来て真央ちゃんがリンクに上がった。


いつもは佐藤コーチだけがリンクサイドにいるのに、今回は隣にジャンナさんもいた。


何て言っているのか分からないけど、

後で真央ちゃんが言うには

この時、佐藤コーチは昔の教え子の話をしたらしい。

その人は、運悪く高熱を出してしまった。
その状態で演技をしなければならない。

その時、倒れたら助けに行くから行ってこいと言って送り出したそうだ。

その人は、最高の演技を見せてくれた。

だから、何かあったら助けに行くから行ってこい。

と佐藤コーチは、真央ちゃんに言ったそうだ。

真央ちゃんは、それを聞いて、自分は熱も出てないから大丈夫だと思ったらしい。

そして、マオ・アサダ

とコールが鳴る。


佐藤コーチとジャンナさんに見送られ、真央ちゃんがゆっくりと中央に立った。

うつ向いて、音楽が始まるのを待つ。

もう、この段階で私は目頭が熱くなっていた。

ラルマニノフのピアノ協奏曲第二番。

この曲はラルマニノフが作曲家として認められず、うつ病になった後作った曲。
そしてこの曲が、称賛を得、認められて彼に光が当てられた。

沈んでいた彼を引き上げた曲だ。

今の真央ちゃんに、なんてぴったりなんだろう。


さあ、始まる。