「セックスは必要ない」

 

ある日突然、そう言い切った夫。

  

 

 

 

 

それに対し、布団の中でのスキンシップも含め、セックスをしたいという空気も作らず、セックスの話題を一切しないようにして、夫の反応を伺ってみようと決めた私。

  

 

 

 

 

前回のセックスから約3週間。

ついにその日はきた。

夫から、

「したいです」

と申し出たのだ。

でも、その時の状況は想像していたようなものではなかった。

 

 

それは、私がかーなり情緒不安定な夜。

夫から理解されず、共感されないことに悩みながら、もしかしたら夫はアスペルガーで、私はカサンドラ症候群なのではと思い始めたときだった。

  

 

 

 

 

その夜の私は、色々な不安や孤独感でいっぱいで、涙が止まらなかった。

理由も分からず泣き続ける私を抱きしめながら、夫はこう言った。

 

「正しく生きている人には悩みなどない。私にも悩みはない。悩むのは、間違った考えを持っているからだ」


「正しく生きる方法を学んで、自分を正す努力をすべきだ」 


「正しく生きるために、あなたも哲学や仏教の本を読んだ方がいい」←夫の趣向

 

これらの言葉は、夫的には私のためを思い、真剣にアドバイスをしているつもりで、そこに私を責める意図はない。

でも、今の私にとって、これらは「お前は間違っている」という鋭いナイフとなり私の心を絶えず刺し続ける。

私達の間では、こういうことが多い。

たとえば、テレビで腸活の特集をやっていた時。

美人で痩せ形の女性が腸活をしてる場面が写った時、それをみた夫は

 

「あなたはこの女性から学ぶべきです。素晴らしい女性です」

 

という。

夫としては、「腸活は体に良いから、方法を学んで実行すればあなたの健康のためになる」という意味で言っていて、その女性が美人だとか痩せているとか、そういうことには興味すらない。

でも、私にとっては「お前もこの美しい女性から学んで痩せろ」と言われているように感じてしまう。

夫に悪意はないことは分かっていても、気が抜けているときに言われるとグサッと来てしまう。

こんなことが毎日起こる。

 

そしてこの夜も、メンタルが弱って泣き続ける私に、真っすぐな目で正しさを説き続ける夫。

何を言っても、理解・共感してもらえず、いよいよ向き合うことが辛くなった私は、横になり夫に背を向けた。

その時。

夫が私の後ろにピタッと張り付き、大丈夫?と言いながら後ろから手を出して胸をまさぐり始めた。

 

…え?

なんで?

今?

私泣いてるのに?

なんで今触るの?

 

妻がこれだけ泣いて、辛いと言っている今この時になぜ胸を触るのか。

やはり夫は宇宙人だ。

「空気を読む」ということが夫には出来ない。

言葉を文字通りそのまま受け取ってしまうから、会話すら簡単ではなく、少しの理解も共感もしてもらえない。

その時、私が望んでいた夫婦像にはなれないんだと確信した。

 

この世の中で、一番理解してほしい人、理解したい人なのに、出来ない。


楽しい事、悲しい事、いろんな感情を共有することが、出来ない。


気楽に冗談を言い合って、笑い合うことが、出来ない。

 

そんなことを考えている最中も、夫は胸を触っている。

そして、まさか自分が妻の精神・体調不調の原因になっているとは夢にも思っていない夫が私を慰めるつもりでこう言う。

「大丈夫ですよ。夫がいます。一生絶対に離れません。安心してください」

 

…一生。

理解し合えないまま、生きていくのか。

ああ。どうしよう。しんどい。体も痛い。でも眠れない。

 

泣きつかれ、無言・無表情のままただボーっとしているとき、夫が言った。

「したいです」

 

そして、いつも通り少しだけ触られ、挿入。

約3週間ぶりのセックスは刺激が強かったらしく、いつにもまして早く終わった。

私の感情を無視したセックス。

これまでは、なぜ自分勝手なの?私の気持ちはどうでもいいの?と毎回傷付いていた。

でも、もしかしたら夫はそもそも、人の気持ちを察したり、理解・共感することが出来ないのかもしれない。

だとすれば、夫を責めることは出来ない。

 

理解を諦め、期待せず、距離を取り、ただの同居人だと思いながら、お互いが心地いい生活を送る。

 

今は、自分の気持ちを最優先して、自分を大切にして、夫の言動に振り回されないように生きよう。

そして、少しずつ、私達夫婦の形を作ろう。

どんな事があっても、私は夫を愛している。