紙の月/角田 光代

¥1,620
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【内容紹介】
わかば銀行から契約社員・梅澤梨花(41歳)が約1億円を横領した。梨花は発覚する前に、海外へ逃亡する。梨花は果たして逃げ切れるのか?―--自分にあまり興味を抱かない会社員の夫と安定した生活を送っていた、正義感の強い平凡な主婦。年下の大学生・光太と出会ったことから、金銭感覚と日常が少しずつ少しずつ歪んでいき、「私には、ほしいものは、みな手に入る」と思いはじめる。夫とつましい生活をしながら、一方光太とはホテルのスイートに連泊し、高級寿司店で食事をし、高価な買い物をし・・・・・・。そしてついには顧客のお金に手をつけてゆく。



NHKでドラマ化され、この秋には宮沢りえ主演で映画化もされる
角田光代さんの長編小説。

普通のパートの主婦が、犯罪に手を染めてしまう。
主婦の心の中に何があったのか、実は本人しか分からない。

男問題、家庭の問題、経済的な問題

周りは色々と詮索し、その犯罪に色をつけようとするんだけど
実は、そんな単純明快なことじゃない。

角田さんがこの本で、この登場人物たちを通して
伝えたかったのではと思う言葉、自分はこれじゃないかと思った。


そして梨花は、ようやく、自分の身に起きたすべてのことがらが、
進学や結婚は言うに及ばず、その日何色の服を着たとか
何時の電車に乗ったとか、そうしてささいなできごとのひとつひとつまでもが
自分を作り上げたのだと理解する。
私は私の中の一部なのではなく、何も知らない子どものころから、
信じられない不正を平然と繰り返していたときまで、善も悪も矛盾も
理不尽もすべてひっくるめて私という全体なのだと、梨花は理解する。
そして何もかも放り出して逃げだし、今また、さらに遠くへ逃げようとしている
逃げおおせることができると信じている私もまた、私自身なのだと。



梨花の横領事件を知った彼女に関わった3人の話も
それぞれに考えるところが多かった。
自分の親しかった人が、境の向こうに行ってしまった衝撃が
生活の中にも徐々に影響され、ただ梨花と同じように
崩れていくことを必死に食い止めようとする姿勢に
日常の枠の中で生きようとする、
法にふれず、平穏な日々を失いたくない、
その価値をしっかりと分かっているその他大勢の自分たちの姿に
照らし合わせて共感できた。

決してハッピーな話ではないが、真にせまる小説でした。