祖母はレコードを聴きながら

煙草の煙でわっかをつくり

イルカのバブルリングのように

天井を見上げ

ふーぅと

浮かべた

 

子供のわたしは

芸というものを

生で見て

目を見張った

 

ねだると

祖母は嬉しそうに

何度も

リクエストに応えた

空中の煙のわは

儚く崩れ空気に溶けた

 

太っている祖母は

痩せるからと

30歳で煙草を薦められ

92で亡くなるまで

吸っていたが

肺癌にもならず、

90で大腿骨骨折した時の

一番のリハビリは

名ヘルパーと毎日病院の

喫煙所まで歩く事だった

 

震災も空襲もくぐりぬけ

神も仏も

信じなくなった

どんなものも

もえちゃえばおわり

よく口癖のように呟いた

 

煙草について禁煙が

多勢派の今

煙草の印象が良いのは

一重に出逢った

亡きヘビースモーカー達の

お陰だと思う