「真中さん、真中さん!」

真中と約束したちょうど1時に安住幸一郎はベンジャミンの家の大きな扉をノックした。

 

内側から扉は開き、眉間に皺を寄せ、気難しい表情をした男が顔を出した。

「どうぞお入りください。」

 

相変わらず不愛想な真中であったが幸一郎は気にもせず中に入ると、木の切り株の椅子に勝手に腰を下ろした。

「お休みのところ、申し訳ありません。真中さん、その後お家の住み心地はいかがです?」

幸一郎は愛想よく微笑んだ。

 

「先日大雨が降り傘を差しながら食事をとりました。安住さん、この村は雨は降らないと言いましたよね。」と責めるような口調で言った。

「あまり雨は降りません。ひどい雨はね。しかし、浄化の雨は関係なく降ります。」

 

「浄化の雨?、、とは」

真中の眉間に明らかに深い皺が新たに1本深く刻まれた。

 

「この村の誰かが悲しむとそれを癒そうと雨が降るのです。」

あっけらかんと話す幸一郎に

「ばかげた話は止めてください。契約違反です。天井を塞いで頂きたい、そちらの費用で」

 

「真中さん、これは特別な建築で天井をふさぐとカビが生えます。天井が開いて光が直接はいることで、しっくいの湿度とベンジャミンの木両方の状態がベストに保たれているのです。建築も木も生きているのですよ。雨が降ったのはこの家の誰かが深い悲しみの中にいたのでしょう。」

 

幸一郎の言葉には思い当たる節があった。

真中は旅からもどってからののらの泣き顔を思い出した。

 

それから、真中ははっ、と突然思い出したように手を2回パンパンと叩いた。

そして、「コマナ、お茶!」と叫んだ。