夜、遅くに仕事から戻ったマナは玄関の扉を開いて「ギャー!」と悲鳴をあげた。

目の前にタンゴとカンナの黒い長い影がマナを見下ろすように玄関の床に伸びていた。

タンゴは片手を上げると、『ご主人様。のら様が風呂敷をもって出かけたまま、まだ帰ってきません。出てきちゃいけないと思ったけど、お知らせしなきゃと思い参上しました。』心配そうにつぶやいた。

「あいつ、また旅にでたんだな。まあ、いいさ。そのうちもどってくるさ。」マナはため息をつきそう言うと、町で買ってきた新しい製図用紙を抱えて仕事場へ入っていった。

 

 

 「真中さん!真中さん!」

翌朝安住の大きな声に起こされて真中は大きな玄関の扉を開けた。

「おはようございます、こんな早くから何の用です?」

真中が不機嫌な顔で安住を見ると、

「もうしわけありません。実は契約書のことでお話が、、、。1点書き忘れた記載事項がありましてね。」

 

「またですか?いったい今度はなんです!」眉間に皺をよせたマナに、

「実は、この村の特別な事情があって年に一度この家を開け渡していただきたいのです。」安住は声を低くして真中に告げた。

 

(おわり)