百花がグッときた歌を紹介する
「勝手に『万葉集』」シリーズ

第一回は、恋の歌です。

「勝手に『万葉集』」シリーズて何ぞ→



(以下、『万葉集』の本文・口語訳は全て『新編 日本古典文学全集』(小学館)から引用しています)



恋ひ恋ひて
逢へる時だに
(うつく)しき
言尽(ことつ)くしてよ
長くと思はば


【口語訳】
恋し続けて
やっと逢えた時ぐらいは
優しい
言葉をいっぱい並べてください
いつまでもとお思いでしたら





女性の歌です。


冒頭から、
「恋ひ恋ひて」ですよ。

「恋ひて」じゃなく、
「恋ひ恋ひて」ですよ。


ツクリ物でない、
作者のナマの感情が伝わってきませんか?


当時の「恋」は、
「 会いたいのに会えない」
「好きなのに想いが届かない」といった、
とても苦しい状態のことをいいます。

それがやっと逢えたとなれば、
喜びもひとしおでしょうし、
またその貴重な時間を、愛の言葉で満たしたい、満たしてほしいという気持ちは、現代人のオンナゴコロでも共感できるのではないかと思います。



とりわけ私に刺さったのは、

「愛しき 言尽くしてよ」
(優しい言葉をいっぱい並べてください)

の部分です。


好きな人に、自分の思いを素直に言えずに苦しかった恋愛を思い出します。


どんな恋愛だったかといえば、
あれは20代の頃。

付き合っているのかいないのかビミョーな関係の相手がいたのですが、
その人に私は、
「私たち、付き合ってるよね?」
と確かめることができませんでした。


訊いて、違う、と言われたら立ち直れなくなりそうだったから。


結局、お別れするまで訊くことができず(なぜか別れ話はきちんとしました)、
いいことも悪いことも、相手に気持ちを伝えずに終わったビビりの恋愛でした。


一言、

「私のことを好きだと言って」

こう言えたらよかった。




好きな人と一緒にいられるなんて、最高に幸せなことです。

その時間を素直な気持ちで過ごすこと、そして、好きな人に対して
素直になるって大事だなと思わされた一首でした。