◆一言で言うとどんな話?
地上と地下、2つの街と2人の姉妹。
交差する運命とArcaneな(門外漢には理解できない)戦いの物語。
◆感想
Netflixの本気を見た!それが率直な感想です。
映像・脚本・音楽全てにNetflixによる本気の予算がかけられていました。
その甲斐はちゃんと数字にも出ていたみたいですね。
原作はライアットゲーム社が運営する世界中で大人気の「リーグ・オブ・レジェンド」(通称LOL)ですが、私含めゲーム未プレイ勢でも楽しめるように随所に工夫が凝らされていたのが良かったです。
◆面白かったポイント3つ
①少女の父親探しという王道テーマと、姉妹の対立という斬新さ
先進国を中心に全世界的に核家族化が進む中で、その現実への合わせ鏡のように「家族とは何か?」という問いを投げかける作品が映画アニメ問わず増加しています。このことは過去の記事でも何度も触れてきましたね。
本作でも同様に家族を中心的なテーマとして据えながら、トレンドである「少女の父親探し」をしっかり踏襲してきていました。両親を失った姉のヴァイと妹のパウダー。彼女たちを保護して育てた養父のヴァンダーは地下街の顔役でもあり、姉妹と地下両方に対して"父性"を発揮する存在でした。
中盤でのヴァンダーの死亡は、現実世界での"父性"の喪失とその後に来る混乱を暗示する非常に象徴的な出来事でした。そして姉妹がたどった運命は対照的。
姉のヴァイは刑務所に収監されますが、格闘技というその才能にさらなる磨きをかける。"力"という(ある意味分かりやすい)父性の象徴を自らの中に宿していきます。
(ピンクヘアーの姉:ヴァイ)
妹のパウダーはヴァンダーの仇であるシルコ(関係ないですがお汁粉みたいな名前ですよね)に育てられ、狂気と罪の中に身を投じます。シルコからの父性を獲得しつつも、どんどん道を外れていってしまい最終的には考えうる限り最悪の形でシルコ=父性を喪失する。
(水色ヘアーの妹:パウダー またの名をジンクス)
この父性が失われた世界の中でどうやって生きるのか?どうやって父性を補完するのか?という王道のストーリーを描きつつ、異なる父性獲得の道を歩んだ姉妹の対比・対決を描くと言う点で斬新さを両立させていた点が面白かったです。
②肉体的な感覚、中でも「殴り合い」についての執拗な描写
本作の中でも特に印象的だったシーンはずばり「殴り合い」のシーンが執拗なまでに多かったところ。ゲームCG調・カートゥン調の作画でしたが、こと殴り合いに関してはかなりリアルに描かれていました。これは相当に意図して書かれていたと思います。
本作の想定視聴者はおそらく10代〜20代前半くらいでしょう。彼らはいわゆるZ世代・SNS世代であり、
SNSが生活の一部になっている今の若者世代は、SNS上で関係の浅い知人ともフォロー、フォロワーとして関わりながら、「広く浅い人間関係」に囲まれて暮らしている。さらにコロナの影響で人と直接会う機会が減り、リアルでの友人関係は希薄化している。(東洋経済オンライン 下記記事より引用)
などと言われるように(注:別に上の記事である必要もなく、どこでも言われていることとして)「リアルな人間関係」が非常に希薄になってしまっている世代でもあります。ではリアルな人間関係とはそもそも何か?
もちろん、家族や友人との深い心のつながり、あるいはそれを感じる上での肉体的接触もあるでしょう。しかし"打倒すべき敵"と命をかけた戦いを行うのもまた一つの人間関係であり、「殴り合い」とは痛みを分かち合う肉体的接触という面でリアルな人間関係でもあるのです。
味方であれ敵であれ他者と真っ直ぐ関わる姉・ヴァイは拳(肉体的接触)で戦い、他者と関わるのが苦手な妹・パウダー/ジンクスは銃や爆弾(肉体的非接触)で戦うという対比もかなり象徴的に描かれています。
ヴァイの拳は他人を殴る度にどんどん血が滲みます。武器も拳を強化するものなので結局近接戦闘でダメージを貰ってしまいますから、どんな戦いでも自身の痛みを伴う。
しかしジンクスは、肉体的非接触のままに人を傷つける。戦いに自身の痛みを伴わないのです。だから歯止めが効かず暴走する。シルコと抱き合う時にも、その根底には妄想やトラウマがあります。全てが嘘とまではいわなくても、全てがリアルなつながりでもないでしょう。多分に互いにとって都合のいい虚構が持ち込まれています。
そして(主にヴァイによって)執拗なまでに繰り返される殴り合いのシーン。私は「リアルな人間関係」を築くことが難しい若い世代・時代に向けて、それでいいのか?と製作陣が問いかけているように思えたのです。
虚構や妄想の世界に逃げるだけでは私たちはジンクスのように狂気に染まってしまうのではないか?(昨今多発する悍ましい事件の実行犯のように)
そうならないためにも、今こそ「リアルな人間関係」の感覚を思い出すべきではないか?もちろん、ヴァイは原作から拳を主体とするキャラです。しかし、製作陣の「リアルな人間関係」を想起させる明確な意図があったからこそ、あそこまで重点的に何度も殴り合いのシーンを描いたのではと思いました。
③特徴的な色彩とアニメーション
本作では色彩もかなり効果的に使われていましたね。やはり一番はオープニングでも下記画像で使われたヴァイとパウダーの髪色の対比。これには痺れました。
全編を通してこの2人の対立が物語の軸となることをオープニングから端的に伝えてくれていました。もちろん他のキャラクターでも髪や服の色。武器のエフェクトなどで、どの立場の人間なのかが一眼でわかるようにできていました。
あと上手いなと思ったのが「CG作画なんだけど違和感がない」という点。僕はCGアニメがかなり苦手な方ですが、アニメーターの荒牧伸志さんによると
イラストがベースとしてありつつ、ダイナミックなカメラワークやアクションになっていることにはアメリカっぽさを感じますし、日本人にとってのなじみ深さと新鮮さが両立している気がします。ただのセルアニメではないし、リアルさを追求しているわけでもない。バランスが素晴らしいですね。
https://natalie.mu/eiga/pp/arcane02
とのことで、実際に筆のタッチを用いたりなど従来のCG作画にはない柔らかさを表現することで絶妙なバランスを生み出していたのだと思います。
また同記事より
CGアニメではあるんですが、光、煙、炎などが、手描きのような表現になっている
とあるように、エフェクト自体はかなり「ゲームっぽさ」を存分に発揮していたと思います。ディズニーアニメ等から長年使われてきたアメリカアニメの手法らしいですね。LOLと同会社が運営するFPSゲーム「VALORANT」のCMを見たときは、Arcaneのエフェクトまんまやん!と思ってしまうほどでした。
今作の対象年代の人たちは特に、違和感なくゲームを原作とした舞台の世界観にのめりこめたのではないでしょうか。
...
長くなってしまいましたが感想は以上となります!
◆終わりに
エンターテインメントとしての面白さを確立させつつ、貧困・偏見・差別・家族の崩壊・父性の喪失といったシリアスなテーマを込めた力作。それがArcaneでした。シーズン2の制作も決まっているようなので、今後が非常に楽しみの作品です。
また、同じくゲームを原作にしたNetflixオリジナルアニメとして今度は「Apex」の作品も製作中だとか。LOLやVALOとは違い、Apexは多少かじったことがあるのでそちらもどうなるか楽しみですね。それでは!