ドラマチックな彼の人生が、ある日突然

平穏な私たちの暮らしに踏み込んできた。


彼をこの話の主人公にしたら、これは感動的な温かいストーリーと

いえるだろう。


でも違う。


私たちはある日突然事故にでもあったかのような出来事に、

無理やり引き込まれた上、ストーリーの一部始終を知らされもしなかった。


被害者というピエロ。

家族という名の詐欺師。


彼と、彼を救った運命的な女性。

彼の改心を喜ぶ両親。

温かな光が彼らを照らし、その影が私たちに落ちた。


私たちの守っている小さな暮らしなど、

光り輝く彼らには見えないのだ。

風が吹けば消えてしまいそうな小さな炎を

なんとか守りたい一心でただ願うのは、

なんでもない小さな平凡な幸せ。


彼らに踏みにじる権利はない。

世間体?誰の?なんのために?

私たちを犠牲にしなければ幸せになれないから仕方なく。

説明は後ろめたいからできればしたくない。

たぶん大丈夫だろう。


彼が家族のありがたさと大切さを知った日、

わたしたちの信じていたものは音を立てて崩れ去った。

遅すぎる謝罪の言葉は空しい。

どうせ頭が上がらないから許してうけいれるしかないんだ。


求めていた真実は残酷な事実の影にみえなくなるほどかすんだ。

無意識に怒りで体中が震えた。

言葉にならないくやしさが涙となった。

私たちの存在は、影。


偽りの光に包まれた幸せそうな彼らは、

偽りの家族を演じることで陶酔しきっていた。


彼の改心を、心から歓迎しよう。

彼のあやまちなど、彼の汚点など、

今の私たちからすればどうでもよいことだ。

彼のスタートを心から応援しよう。

彼の幸せを心から願おう。


けれど、彼らの裏切りは忘れない。

汚い大人になんかなりたくない。

うそつきなんか、大嫌い。