「自分の気持ちで、好きでするならマチしかいないと思う。

けど、今でも仕事の為に結婚を利用することを考えること

がある」



うたに、ある時そう言われた。

ある程度覚悟していたけれど、別段ショックを受けてもいない

自分に少しだけ驚いた。


うたのことは、誰よりも愛していると思う。

それでも、うたを信頼しているわけじゃない。


信頼よりもっと深くて浅ましい感情で、わたしはうたの全てを

享受しているのだ。


うたのよわさも、卑小さも、気位の高さも、才気も。

それでもうたには、確かに足りないものがある。


うた自身もそれに気付いているからこそ、政略結婚なんて

小説じみた方法を思いついたのかも知れない。


それでも、どんなに卑怯であってもまだ、わたしはうたが好き

だ。

うたの全てを愛しいと思う。




うたはよく働く。

朝方に今から休む、とメールがくることも多い。


うたと抱き合った時、こんな季節だというのに、ワイシャツの背

が汗で濡れていることがよくある。

遅れそうだったから走ってきた、うたはそう言うのだけれど、

わたしは彼の一日を思って切なくなる。


冷たくて計算高いうたは、それでも血の通った人間なんだと、

そんな時に改めて感じるのだ。


人間は弱い


そんな命題までも、わたしはうたから感じ取る。



他人の弱さを愛したことなんてなかった。

他人の弱さは醜悪な物でしかなかった。


なのに、何故だろう。

わたしはうたの全てが好きだ。



今夜会えるから。

どうなっても、後悔したくない。