2026年5月 全4回 NHK総合 放送

 

 

今月の100分de名著は「大いなる遺産」とのことで

先月のヴィトゲンシュタインに引き続き視聴しておりました。

解説は意外にも河野真太郎先生です。

河野先生はkUNILABOなどで馴染みのある方なのですが

ジェンダー批評や20世紀の英文学がご専門でいらっしゃるので

19世紀のディケンズの解説は予想外で驚きました。

 

全4回を視聴して思うのは「大いなる遺産」は

ディケンズの世紀末観が感じられる作品だということです。

第2回のマグウィッチというアンダークラスの力で

ピップが伸し上がる構造が

植民地の富で繫栄する大英帝国と重なるという指摘から

ディケンズは帝国主義により成り立っている大英帝国を

今までのようにセルフメイドマンに代表される

尊敬に値する人々の国家として

単純に肯定しえなくなっていると感じました。

 

またマグウィッチにより立身出世したピップと

ミス・ハヴィシャムに育てられたエステラの対比において

過去に囚われたマグウィッチもミス・ハヴィシャムエステラも

他者を利用したことに対して

ミス・ハヴィシャムとエステラには罰が下ることを

河野先生はディケンズのミソジニーと解釈されていましたが

私はこの解釈には納得しかねます。

ミス・ハヴィシャムは利用しただけでなく他害を目論見、

エステラは男性の心を弄ぶことを実行します。

2人とも他害に関与しているので

より重い罰が当たったとだと思います。

 

曖昧な結末から

ディケンズの世紀末に対する不安を読み取れます。

立身出世の輝かしい未来、つまり大英帝国の発展も信じられず

懐かしい故郷ではビディとジョーが結婚し

かっての自分のポジションにいる子どもの存在で

過去にも戻れないピップは現在に立ち尽くしています。

そんな中でもう1人の自分であるエステラと再会します。

友情を確かめあうエンディングは初期のディケンズ作品にある「家庭の天使」との結婚ではありません。

この先の2人の関係が曖昧な所に暖かく幸せな家庭という

私的空間における単純な幸せすら見いだせない

ディケンズの苦悩が感じられます。

 

番組内で紹介されていた幻のエンディングの方が

私はよりハッピーエンドだと思いました。

ピップはジョーとビディの子どもの父親と間違えられる、

つまり父親代わりになるということで

幼き日のジョーとピップの関係における

親側へと成長することができたと読み取れるからです。

 

結婚も立身出世もしなかったけれども

マグウィッチやジョー、ハーバードとの出会いの中で成長し

なんとか先の見えない現実を生きていくピップの姿は

世紀末の揺らぎの中で今を生きるヴィクトリア朝の人々、

そして現代の我々と共振していると感じました。

 

 

 

「大いなる遺産」のジェンダー批評の本なら

下記の2冊がお薦めです。

どちらも読みましたが非常に勉強になります。

 

 

 

 

「大いなる遺産」は高校生の時に読んだのですが

今思えば人生の下り坂を行き始めた40歳以降の方が

より深みや味わいが分かる小説かなと思います。