『名探偵に薔薇を』
城平 京 著 創元推理文庫
【内容(「BOOK」データベースより)】
怪文書『メルヘン小人地獄』がマスコミ各社に届いた。その創作童話ではハンナ、ニコラス、フローラが順々に殺される。やがて、メルヘンをなぞったように血祭りにあげられた死体が発見され、現場には「ハンナはつるそう」の文字が……。不敵な犯人に立ち向かう、名探偵の推理は如何に? 第八回鮎川哲也賞最終候補作、文庫オリジナル刊行。
この小説は読み始めてすぐにのめり込むことができる。
出だしは夢野久作を彷彿させるのが私好みだが、さてその先はどうかな?
30数か所のマスコミ関係各社に『メルヘン小人地獄』と称する奇妙な童話が届けられていた。
その童話はある天才医者が毒薬を作るのだが、多数の小人を瓶に詰め、腐り始めたら首をねじ切り、脳髄を取り出して特殊な毒薬を作る。
生き延びた小人たちはこの医者に復讐を誓う。
ところがこの医者はぽっくり死んでしまう。
小人たちは医者に復讐ができなくなったので生贄として、ハンナ、ニコラス、フローラ を殺す。
いったいなぜ生贄が ハンナ、ニコラス、フローラ の3人なのかは読者にはわからない。
ハンナはつるそう。ニコラスは煮よう。フローラは皮膚をはぎ取ろう。そしてその通りの方法で殺害して復讐を遂げ、小人たちは幸せに暮らし、めでたしめでたし。
という内容の童話。
マスコミ関係はそれぞれ悪戯だとして、あまり取りざたされなかったが、最初の殺人現場に血文字で「ハンナはつるそう」という文字が…
一気にマスコミは騒がしくなる。
そして、第二の殺人では風呂場で煮詰められた死体。壁の血文字は「ニコラスは煮よう」
この童話の内容は、33年前のある事件と相似している。
現実に「小人地獄」と名付けられた毒薬を作ったある医者がいた。
医者は何者かに殺された。
最初の被害者の女性はその医者の娘であった。その女性の子どもの家庭教師がこの小説の語り部となっている。
毒薬を作るのに、無理やり助手をさせられていた男と、その薬の実験台にさせられていた男。
その男たちが、その医者の娘に復讐したのか?
というわけで、メルヘンと現実とが交差して、なかなか面白い読み物になっている。
第一部 メルヘン小人地獄
第二部 毒杯パズル
上記のように二部に分かれていて、第一部中盤で名探偵と言われている 瀬川みゆき が登場。
この女性がまた個性的で、不思議感漂う設定。何か暗い過去がありそうな…
警察に対して瀬川みゆきは3日間で事件を解決してみせると言い切る。
そして第一部後半で、名探偵瀬川みゆきは一気に鮮やかな謎解きをして事件は解決。
ここの部分は、もう少し深い謎があるのかと思ったら、普通にそうだったんだくらいで、あまり驚愕の事実という感じではなくて物足りなかった。
第一部で事件が解決したのだから第二部はどう展開するのか。
これが気になり先に読み進めることになる。
第二部は第一部の被害者の自宅リビングで起きた事件から始まる。
月二回、お茶を飲む習慣のある藤田家。
6人が集まったが、お茶を最初に口にした女性が亡くなった。
後にポットにあの「小人地獄」の毒が大量に混入していた。
そこで、また 瀬川みゆき が呼ばれ謎解きが始まる。
瀬川みゆきは、またもや鮮やかな謎解きをしてくれるが、そこで終わらず 真相は二転三転 して、読者を混乱させてくれる。
結末は、あまり爽快感はない。
瀬川みゆきのあの暗さは何によるものか、ここで読者は理解する。
第一部はメルヘンと現実の融合、第二部は名探偵ゆえの苦しみを抱えた瀬川みゆきの物語となる。
冒頭では、夢野久作を彷彿させると思ったが、まるで違う方向にいって終結。
まあ、これはこれで面白かったけれど、ちょっと期待していたほどではなかったかな。