『彼は彼女の顔が見えない』

(原題:Rock Paper Scissors<石、紙、ハサミ>)

アリス・フィーニー 著 創元推理文庫



驚異の一気読み、驚愕のどんでん返し!

『彼と彼女の衝撃の瞬間』のどんでん返しの女王が放つ、

傑作サスペンス!

 


【内容(「BOOK」データベースより)】
アダムとアメリアの夫婦はずっとうまくいっていなかった。そんなふたりは、カウンセラーの助言を受け、旅行へと出かける。ふたりきりで滞在することになったのは、スコットランドの山奥にある、宿泊できるように改装された古いチャペル。彼らは分かっている。この旅行が結婚生活を救うか、とどめの一撃になるかのどちらかだと。だが、この旅行にはさまざまな企みが隠されていた――。不審な出来事が続発するなか、大雪で身動きがとれなくなるふたり。だれが何を狙っているのか? どんでん返しの女王が放つ、驚愕また驚愕の傑作サスペンス!

 


彼は彼女の顔が見えない


 

賛否両論の本らしい。
さて、私は面白く読めるかどうか…

 

ロンドンに住むアダムアメリアの40代の夫婦。
アダムは仕事が順調な脚本家
アメリアは動物保護施設で働いている。

 

アダムは生まれつきの相貌失認(失顔症)で、表情を汲み取ることもできず、誰の顔も見分けられない
パーティーに行っても友達に囲まれているのに誰一人知り合いがいないような気分になる。
それで、いつも夫婦二人でいることが多い。
アダムは子どもを欲しがらない。
自分の子どもの顔が分からないのは辛すぎると…
妻の見分け方は香水の匂いや声の響きや手をつないだ時の手の感触などで認識する。

二人の関係はうまくいっていない。
そんな折、クリスマスにアメリアの職場のくじで当たった<宿泊施設に改装された古いチャペル>へ2泊三日の招待。
愛犬ボブも連れてだ。
この旅行がこじれた関係を打開する最後のチャンスだと二人は分かっていた。
チャペルはスコットランドのハイランド地方ブラックウォーターにある。
途中、雪に降られ、道に迷いながらもやっとたどり着く。
改装されたチャペルは、声をかけても誰もいない。
中に入ると手紙が置いてあり、アメリア、アダム、ボブ宛てに、楽しんでくださいとあった。
なんとも気味悪い古びたチャペルで埃だらけ。地下室は黴臭く陰気臭い。
寝室はきれいにしてあったが、アメリアの家の寝室とそっくりに設えていて、ちょっと不気味である。
そして不審な出来事が続く…

これから何が起きるのか、読者はちょっと構えながら読むことになる。

この物語は、大きな流れとしてアメリアの「わたし」アダムの「おれ」の二つの視点で交互に綴られる。
内容の多くは二人の内面が語られ、お互い隠していたことがあるような伏線が書かれている。
この二人の章の間に<妻からアダム宛てに書いた手紙>がアトランダムに挿入される。
この手紙は実際にはすべて出されなかったものなので、アダムは知らない。
結婚前にアダムに宛てた2007年の手紙(章題:『石』)から始まり、2009年の結婚1年目の章題『紙』、2年目の『綿』、3年目の『革』と続いていく。
この小説の原題は Rock Paper Scissors <石、紙、ハサミ>で、アダムが初めて書いた脚本の題名でもある
結婚記念にもなぞらえ、またじゃんけんの グー、パー、チョキ にもなぞらえているようだ。

結婚を重ねるごとに婚式からだんだん硬くなって、婚式、婚式を経て70年目でプラチナ婚式となることは知られているが、結婚前が『石』としているのが、どういう意味なのか、また『ハサミ』とは何を意味するのか…。

 

挿入章は、このほかに、このチャペル近くに住むロビンという内気で孤独な女性の描写も綴られている。

この女性はチャペルに来た客が気になり、ずーっと観察していて不審人物だ。
このロビンがどうかかわって来るのか気になりながら読み進む。

 

後半は二転三転のどんでん返しで、最後は極め付きのどんでん返し。

タイトル原題の<石、紙、ハサミ>の意味が明かされるところで終わる構成は巧みだと思う。

この本は、一言で言うと、前作の『彼と彼女の衝撃の瞬間』もそうだが、大人の心理サスペンスミステリーとでもいったらよいか。
大人の感性で、夫婦の日常の嫌味なやり取りなど結構長かったりするので、これがしつこく面倒くさいと考えれば、面白く感じないかも。
そんなところが賛否両論である理由のような気がする。


※ 私が相貌失認という言葉を知ったのは、2011年の『フェイシズ』という映画でした。
ミラ・ジヨヴォヴィッチが主演のサスペンス映画です。
とても印象深いもので怖かったと記憶しています。

 

 

映画『フェイシズ』予告編