『厭魅の如き憑くもの』
三津田 信三 著 講談社文庫
ブロ友さんから紹介された<刀城言耶(とうじょうげんや)>シリーズ1作目。
表紙からすると横溝正史風のおどろおどろした感じかな。
こういう小説は私の大好物。😊
【内容(「BOOK」データベースより)】
神々櫛村。谺呀治家と神櫛家、二つの旧家が微妙な関係で並び立ち、神隠しを始めとする無数の怪異に彩られた場所である。戦争からそう遠くない昭和の年、ある怪奇幻想作家がこの地を訪れてまもなく、最初の怪死事件が起こる。本格ミステリーとホラーの魅力が圧倒的世界観で迫る「刀城言耶」シリーズ第1長編。
横溝正史よりホラー色強く始まった物語。
目次の章題部分の大文字が一般的な漢数字ではなく大字(だいじ)で表記していて、古めかしさが漂う。
しかも旧字体である。参までと伍は読めるけれどそれ以外は読めなかった。
つまり<壱、弐、参、肆、伍、陸、漆>の7つの構成。
7つの章はそれぞれ共通の3つの内容が挿入されている。
<紗霧の日記より>
<取材ノートより>
<漣三郎の記述論より>
小説の時代は、かなり昔の昭和ということらしいがはっきりとは分からない。(昭和30年あたり?)
禍々しい神々櫛村(かがぐしむら)での出来事を、主人公である “刀城言耶” が “紗霧” と “漣三郎” から直接聞いたことを忠実に記し、そこに取材したことも交えて1冊の書にしたという設定だ。
本名 “刀城言耶” という人物は放浪の怪奇幻想作家でペンネームは 東城雅哉 という。
あれっ?ペンネームが “刀城言耶” の方がぴったりくるのになーなんて思いながら読んだ。
神隠しや憑き物の村として知られているので “刀城言耶” はこの調査にノリノリで村にやってきて、恐ろしい経験をすることになる。
村の人々に厭魅(まじもの)と恐れられているものは何なのか。
村の神社に祀られている山神様や、村のあちこちに祀られているカカシ様と呼ばれているものは何なのか。
カカシ様は 組笠と蓑 をまとっていて薄気味悪い姿だ。
谺呀治家と神櫛家の2つの旧家が物語の中心となっているが、なんと複雑な相関図。
谺呀治家代々の女性は全員双子であり、名前も全員<さぎり>という名前を付けられる。
又霧、早霧、嵯霧、小霧、そして重要な役となる紗霧。
相関図は最初に載っているので、何度も何度も確認しながら読み進めることになる。
文章も、章題と違わず古臭い言葉や漢字で、ちょっと読みづらいが、時代と閉鎖的な村の雰囲気と怪異漂う感じがしてゾワゾワする。
そして紗霧の周りに怪異なことが起こり、奇怪な4つの連続殺人が起きる。
死体には組笠と蓑でカカシ様のような演出をされている。
“刀城言耶”は協力を依頼され捜査を開始。
“刀城言耶” の人物像が一風変わっていて、なかなか魅力的に描かれている。
怪異な話になると目の色が変わり、極端な様相でのめり込んでくるというさすが怪奇幻想作家。
年の頃20代後半、見かけは20代前半のようだという描写アリ。
この時代、ジーンズを穿いてラフな装いは珍しい。
ジーンズなんか見たこともない村人は、最初は遠くから見ている様子だが、だんだんと彼の出自が高貴であることなど、少しずつ村人は信頼してくる。
とくに紗霧の幼なじみで大学浪人中の漣三郎は、彼のその姿にかっこよさを感じてもいるし、彼を頼って一緒に謎解きを始める。
さて、放浪の怪奇幻想作家 は、事件の解決を見ることはできるのか。
あと60ページくらいを残すところとなり、“刀城言耶” の謎解きが始まりワクワクしてくる。
それも二転三転、4人を殺害した連続殺人犯は誰だ。
そしてとうとう真犯人が分かる。
そこには、思ってもみない叙述トリックが隠されていた。
実は、私は、あの<壱、弐、参、肆、伍、陸、漆>に書かれている内容に違和感を覚え、気になっていた。
なぜそんな書き方をするのか。
誰の視点で書いているのか。
これが、あとになって分かって、そういうことだったのかと…
目次の冒頭に「はじめに」とあって、“刀城言耶”の「僕」という一人称で断りが書かれているが、これも叙述トリックに誘導するものであることが後でわかる。
この時も、なぜこんなことわざわざ書かなくてはならないのかと違和感を持っていたが、なるほどそういうことだったのかと納得。
知的な謎解きゲームのような小説だった。
<現実と怪異な世界の融合>のようなこの小説、雰囲気に浸れて面白かった。
次作で、“刀城言耶” はどこに怪異伝承を求めて放浪するのか楽しみだ。