『金魚姫』

荻原 浩 著 角川文庫

 

 

“ 姫 ” の付くタイトルの本って、私はなぜか好きです。

面白そうなので読むのが楽しみ。

 

 

直木賞作家の真骨頂! 

笑って泣ける人間讃歌

 

【内容(「BOOK」データベースより)】

恋人にふられ、やりがいのない仕事に追われていた潤は、夏祭りで気まぐれにすくった琉金にリュウと名をつけた。その夜、部屋に赤い衣をまとった謎の美女が現れ、潤に問いかける。「どこだ」。どうやら金魚の化身らしい彼女は誰かを捜しているようだが、肝心な記憶を失い途方に暮れていた。突然始まった奇妙な同居生活に、潤はだんだん幸せを感じるように。しかし彼女にはある秘密があった。温かくて切ない、ひと夏の運命の物語。

 

金魚姫

 

 

“ 江沢 潤 ”29歳。

同棲していた恋人に去られ、仕事もうまくいかず、眠れずに睡眠導入剤のお世話になっても寝付けない。

死にたいと思っても実行できずにいた。

そんな時、夏祭りの音につられてふらっと寄った<金魚すくい>

美しい 琉金 に魅せられ、これがすくえなかったら自殺しようと心に決めた。

そう思うとなぜか死にたくないと必死になり、子どもの頃、祖父が教えてくれた金魚すくいのコツを思い出し頑張った。

とうとうゲット

家に持ち帰った夜から不思議なことが起きる。

最初は夢かと思い、次は自分が精神病になって幻覚を見ているのかと思った。そしてそれが現実であることに気づく。

リュウと名付けた琉金が赤い衣をまとった美女に変身したのだ。

彼女が初めて口にした言葉、「どこだ」

ここはどこだ?という意味か?

あるいは、探しているものはどこか?といっているのか?

潤には意味が解らなかった。

そして彼女が言う「何故魚なぞに身をやつしておるのか、知りたいか」と…

潤は口ごもった。

続けていった彼女の言葉「私も知りたい」…だってさ。

記憶がないということね。

ハハハッ、面白い。笑えるね。

 

この最初の会話で、これから二人が頓珍漢な会話と摩訶不思議な同居生活が始まるのだなーと興味が募る。

 

 

この小説の柱は、潤とリュウのストーリー

なんともユーモラスで面白おかしく笑いがいっぱいで、軽いノリのラノベ感覚で楽しめる。

ただ、もう一つストーリーがあり、それはリュウのいくつもの世を千数百年も生きてきた数奇な人生が並行して綴られていて、こちらは打って変わって古風で重厚な文体である。

この語り口の対比がなかなか魅力的で面白く、よくできた構成となっている。

また、潤が買った金魚のガイドブック「金魚傳」の内容も時々挿入されている。

かなり古い本でその内容は意味深いものとなっている。

作者 “ 長坂 常次郎 ” が、なぜ金魚の本を書くことになったのか、そして彼も数奇な運命を生きていることの描写もある。

 

終盤でリュウの記憶がすべて戻り、そこでリュウが言った一言で読者は愕然とする。

私は、しばし「えっ?」「なにっ?」

口がぽかんと開いてしまった。

 

しばし、言葉の把握に時間がかかった。

ゆっくり考えてみれば、ミスリードされていたなあと、自分の推測が外れていたことに気づく。

そうか、あの「金魚傳」の作者が言った言葉、「すべては繋がっているのだ。偶然に思えるあらゆるものが、じつは見えない糸で繋がっている。それが因果だ。と…

この「すべては繋がっているのだ。」という言葉が何度も出てきていた。

なるほど、大伏線だったのか。

 

この本は、笑って泣いて、泣いて笑って

 

そして、切ない切ない愛の物語 だった。

 

ファンタジー小説は、なかなか好みのものが私的には少ないけれど、この小説は読んでよかったと思った。