『生物学探偵セオ・クレイ: 森の捕食者』

アンドリュー・メイン 著 ハヤカワ・ミステリ文庫

 

 

『生物学探偵セオ・クレイ』シリーズの1作目

 

 

著者略歴によると

マジシャンイリュージョン・デザイナー作家。十代の頃よりサーカス付のマジシャンとして活躍。かのデイヴィッド・カッパーフィールドに次ぎ、史上二番めの若さで世界ツアーに出たイリュージョニストとして知られる。

ですって。

とても興味を惹く作家さんですね。

 

【内容(「BOOK」データベースより)】

モンタナ山中での調査からモーテルに戻ってきた生物学者セオ・クレイは、突如警察に拘束された。かつての彼の教え子が、無残に切り刻まれた死体となって近隣で発見されたのだ。セオの嫌疑はすぐに晴れ、検死の結果、犯人は熊とされた。だがセオはその結論に納得せず、独自の調査を始めるのだった―カオスの中に秩序を見出す!生物情報工学を駆使して事件を解決する天才教授セオ・クレイの活躍を描く、シリーズ第一弾。

 

生物学探偵セオ・クレイ森の捕食者

 

 

 

初っ端にセオが警察に拘束されるところから始まるので、ツカミはいい感じ。

かつての教え子の惨殺事件の容疑だったが、すぐ嫌疑は晴れた。

検死の結果、クマに襲われた のだとされた。

そして、その襲撃犯のグリズリー・ベアがハンターに撃ち殺され、これで一件落着のように思えた。

ところが、セオは何か腑に落ちない部分があり、被害者の血液サンプルを盗むという荒業に出た。

セオにはジュリアンという、ベンチャー投資家で大富豪の支援者がいる。

セオの希望することは今までも全部叶えてくれる頼もしい人物だ。

今回、セオが持っている被害者の血液サンプルと、例の熊の体毛を調べてもらうことにした。

ジュリアンは、CIAが主なクライアントのDNA鑑定をする特殊企業<エクセルラー>を持っている。

テロリストの特定や、無人機で死んだ被害者の身元特定に役立っているというなんともすごい最先端の企業だ。

結果、その熊の毛は<リッパー(切り裂き魔)>と言われている凶暴な熊のものだった。

ところが、ハンターが殺した熊は<バート>という熊のもので一致しない。

それでは殺人熊はまだ生きていることになる。

警察に言うと、警察のグリズリーのDNAの登録番号から<リッパー>はすでに死んでいたのだ。

セオは、そうだとすると死んだ熊の毛を使って熊の襲撃に見せかけた人間が犯人だと訴えた。

警察は、これ以上おかしなことを言うとセオを精神鑑定にかけるぞと脅した。

セオは、かつての教え子のために、独自に調査することにする。

 

 

生物学探偵って、生物だけの専門家だと普通は思う。

このセオは「計算科学と生物学の中間」だと言う。

つまり、生物学者であり、コンピュータのブログラマーでもあるので、正式には<情報生物学者>と言うらしい。

 

セオが開発した<MAAT>は、莫大な情報を分類してパターンを発見するソフトウェアだ。

セオはこの専門分野において天才的な学者だということが解る。

ただし、専門外のことになると無知な部分も多く、人とのつながりも如才なくということが苦手で不器用だ。

まあ、学者バカと言ったような人物で、なかなか個性的なキャラに好感が持てる。

 

この学者が主役なので、どうしても専門的な説明が全編を通じてかなりのページを割いている。

それが気になる人もいるかもしれないが、シリーズの1作目というものは、まだ主役のキャラクターや背景をしっかり描写するところから入るので、これは致し方ないと私は思った。

 

セオは<MAAT>により導き出した情報で、失踪者である二体目の遺体を見つけることになる。

それも、教え子の遺体と同様の凄惨に切り裂かれた状態で埋められていた。

埋められていたのでこれは人間の仕業だと言っても、警察は熊によるものだと言う。

熊は獲物を埋める行動をするものだと、取り合わない。

それから、またセオは<MAAT>により、6体もの遺体を発見することになる。

これはほんの一部であり、300体くらいになるだろうというのがセオの予想だ。

 

なかなか警察がセオを信用せず、読者はいらいらさせられ、いつ大団円を迎えられるか期待をしながら先を読み進むことになる。

 

 

この小説は、突っ込みどころが随所にあるが、読み終わるとそんなことはどうでもいいものだと思えた。

終盤は、セオが死に物狂いで犯人と戦うのだ。

犯人は13日の金曜日のジェイソンのような恐ろしい殺人鬼。

学者でしかないセオがどうやって戦うのかが読みどころ。

まさか、最後はアクションになるとは思ってもみなかったので、スリル満点に、ちょっとこれはうれしい驚き。

 

まあ、1作目なんだから甘さの見える細かいところはあまり気にせずに、ただひたすらストーリーを楽しむ のがこの本の読み方だと思う。

 

二作目の『街の狩人』も一緒に購入していたので、楽しみになった。

しばらく、他のジャンルの本を読んでから手に取ることにする。

 

 

【余談】

毛によるDNA鑑定は毛根部分がないとできないと私は覚えていたけれど、この小説ではあの熊の毛は毛根がなく毛幹部で鑑定できている。

あのジュリアンの特殊企業<エクセルラー>で、12時間で鑑定結果が出たのには驚きだ。

でも現実、可能ではあるらしい。

「mtDNA(ミトコンドリアDNA)」によるかなり難易度の高い鑑定方法で、どこででもできるというものではないらしい。それなので特殊なケースの時のみ行われる。