新装版『殺戮にいたる病』

我孫子 武丸 著 講談社文庫

 

 

この小説の初版は、30年も前だそうです。

知りませんでした。

とても気味の悪いタイトルの小説です。

でも面白そう。

 

 

永遠の愛をつかみたいと男は願った

 

あなたはこの叙述トリックに勝てるか

 

 

【内容(「BOOK」データベースより)】

東京の繁華街で次々と猟奇的殺人を重ねるシリアルキラーが出現した。くり返される凌辱の果ての惨殺。冒頭から身も凍るラストシーンまで恐るべき殺人者の行動と魂の軌跡をたどり、とらえようのない時代の悪夢と闇、平凡な中流家庭の孕む病理を鮮烈無比に抉る問題作!衝撃のミステリが新装版として再降臨!

 

殺戮にいたる病

 

 

まず、この本を手に取ってびっくりしたことは、冒頭に エピローグ があること。

結末を先に書いてどうする?何かの間違い?

いえいえ、これでいいのだ。

このエピローグでは、猟奇殺人犯 “蒲生稔” が逮捕された場面の描写。

彼は、逮捕時全く抵抗もしなかった。

“蒲生雅子” は泣き叫び、茫然自失。そこには死体が横たわっている。

警察に通報したのは 樋口 という定年退職した元刑事。

 

後に、は事件の詳細を素直に自白し、死刑判決 がおりた。

彼は控訴しなかった。

 

この エピローグ はたった2ページ

 

次ページから事の顛末が第一章から始まる。

 

 

視点は、3人。

最初は息子を疑う母親、 “蒲生雅子” の視点から始まる。

次に犯人の “蒲生稔”、その次に 樋口” と、この3人の視点 で交互に語られる構成になっている。

 

 蒲生稔 がなぜ、殺人を犯すようになったのか。

女性に愛を感じたことがない稔は、最初の殺人でその女性に永遠の愛を感じ、その愛が薄れてくるとまた、また真実の愛を感じたくて殺人を犯す。

その殺人は、むごたらしい。

まず、絞殺か扼殺で殺した後、屍姦をし、乳房と性器を切り取るというものだ。

 

元刑事の 樋口 は64歳、妻を昨年夏に乳がんで亡くしていた。

入院中、お世話になった看護師 “島木敏子” が、蒲生稔に殺されたことで、この事件に関わってくる。

 

この島木敏子は、樋口の妻がなくなった後も心配して、時々食事の世話に来ていた。

敏子が殺された日にも、樋口のところに来ていて、夜10時ころ退去している。

それで、敏子の最後の目撃者である樋口に警察が聴き取りに来た。

樋口がタクシーを呼んで彼女を帰したので、彼の疑いは晴れた。

その帰宅途中で彼女は殺されたのか?

 

そして、雅子は、最近の息子が夜更けに数時間出掛ける様子に何が起きているのか不審に思い、彼の部屋などを調べていると、妙なものを発見。

ゴミ箱の中に血が溜まっているビニール袋をあった。

そこから、母親は息子に最近起きている殺人事件と関連付けて考えはじめ、夫にも相談できず苦悩の日々を送ることになる。

 

の視点では殺人を犯していく描写が続く。

樋口の視点では被害者の島木敏子の妹と協力して犯人捜しをする描写。

そして、母親の雅子が息子に疑いを持ち、最後には変装して息子を尾行する描写。

 

とうとう、殺人現場を樋口雅子も目撃し、樋口が通報しては逮捕されるという、冒頭のエピローグ(前述しているが、冒頭であるのにエピローグで始まる)へつながる。

 

 

 

この小説を読み始めて、アメリカ映画 『アメリカンサイコ』 を思い出した。

小説も読んだし映画も観たけれど、映画の クリスチャン・ベイル スタイリッシュで、そんな彼が日常的に猟奇殺人を犯す姿は恐ろしくも美しく見ものだったが…

 

でも、この小説は残酷さが際立ち、殺人場面に読み続けるのがだんだん辛くなる。

 

そして、その結末の最後の1ページ。

それも、その1ページの中のたった1行に

 

天地がひっくり返った!!

 

しばし茫然!!

 

 

少し冷静になってもう一度その1ページを読み直す。

 

なんてこった。

 

叙述トリックにしてやられた

 

その検証のため、もう一度冒頭に戻る。

 

あれれっ、この小説1ページ目から私は騙されていたのだ。

 

叙述トリックというと、アガサ・クリスティー『アクロイド殺し』を思い出す。

あれもびっくりしたけれど、叙述トリックにもいろいろ種類があって、この本はまた 違う切り口 のもので、なかなかよくできていた。

 

このトリックは他の小説で使われているのを読んだことあるが、大体 途中で気が付くものだ。

それなのに、ああ!それなのに!構成が巧みで、何の 違和感もなく自然にトリックに引っかかっていることに気が付かなった。

レビューの中で、すぐにわかるようなトリックだと低評価の人もいたけれど、私はすっかり騙された。

 

賛否両論ある小説 だ。

 

どんでん返しだけのもので、小説としては低レベルであるという評価の人もいた。

私は、最後の仕掛けの暴露だけに重きを置いたものであったとしても、結構その騙し方は好きだ。

 

再度検証すると、細かいところでかなり上手に隠しきっているので、私は評価したい。

母親雅子 の視点での語りが、一番作者が力を入れているところだ。

巧妙だなーと思う。

 

本書は読みやすくページ数もそれほど厚くないので、スイスイ読める。(全368ページ)

これが上下巻で最後のオチまで引っ張っていかれたら、私も低評価だったかもしれないけれど、このくらいのページ数なら、最後の1行のどんでん返しは効果がある。

 

それから、巻末の解説を先に読まないでほしい。ネタバレしているので…

 

興味を持たれた方は、ぜひ読んでみてね。