『天使と嘘』

マイケル・ロボサム 著 ハヤカワ・ミステリ文庫

 

英語圏ミステリの頂点、

英国推理作家協会賞最優秀長篇賞ゴールド・ダガー受賞!

嘘を見破る能力を持つ少女と、秘めた過去を持つ心理士が、

混迷極まる殺人事件に挑む

新シリーズここに開幕!

 

【内容(「BOOK」データベースより)】

臨床心理士のサイラスは、かつて異様な殺人現場で発見された少女と施設で邂逅する。イーヴィと呼ばれる彼女は、人がついた嘘を見破るという特殊な能力を持っていた。折しも、スケートの女子チャンピオンが惨殺される事件が発生。将来を期待された選手にいったいなにが起きたのか? 捜査に加わったサイラスは、イーヴィと事件の真相を追及する――。世界各国で激賞された英国推理作家協会賞ゴールド・ダガー受賞作

混迷深まるスケート選手殺人の捜査は二転三転し、優等生と思われていた被害者の身の上にも驚くべき事実が明らかになる。だがそれは隠された秘密の一端に過ぎなかった。そしてサイラスによって施設から引き取られたイーヴィは、事件の証拠を発見するが……深い傷を抱えた少女と、秘めた過去を持つ臨床心理士の交流は、嘘にまみれた犯罪を解決できるのか? 巧緻なる傑作シリーズ第一弾。

 

天使と嘘

 

 

 

臨床心理士の サイラス 嘘を見破るという特殊能力を持つ少女 イーヴィ 二人の視点で語られる。

 

6年前、ロンドン北部の民家の2階寝室クローゼット内の 隠し部屋 で見つかった少女、それが イーヴィ

当時12、3歳と推察されたが、体重はその半分の年頃の子どもより少なかった。

髪は伸び放題、目は鋭くまるで野生の獣のようで、狼に育てられたと言ってもいいくらいだ。

少女が発見されたすぐそば(同じ寝室)で6週間前、警察が男の腐乱死体 を発見していた。

男はその家の賃借人 テリー・ポーランド でけちな犯罪者だった。

男は異常ともいえる拷問を受け、少女は何か月も死体のそばで暮らし、ひそかに外へ出て食べ物を盗んで、庭で飼われていた二匹の犬にも分け与え生き延びてきた。

少女は、自分の体に触れることを拒み、言葉は食べ物を求める時と、犬が元気であるか尋ねる時のみ。

 

名前が不明だったため、便宜上看護師たちは “天使の顔(エンジェル・フェイス)”と名付けた。

 

結局調べても身元は全く分からずじまいで、裁判所の被後見人となり、新しい名前 イーヴィ・コーマック となった。

いろいろな里親に預けられたが、どこに行っても逃げだすか、送り返されるかで問題児のいる児童養護施設に送り込まれた。

彼女は、怪我をさせたり盗みをしたりで 素行が悪く、誰もが手を焼いていた。

彼女を担当するケースワーカーも臨床心理士もソーシャルワーカーも皆、彼女の反抗的な態度に困り果て見放した。

この施設の職員でサイラスの友人でもあるアダム・ガスリーが彼女を心配して、臨床心理士サイラスに、イーヴィを託すことになった。

サイラスは施設のグループセッションを見学、彼女の心を開かせるため、今までの臨床心理士とは違う方法で彼女に接することにした。

しかし、彼女は自分のことも事件のことも 何一つ語ろうとはしない

 

イーヴィが初めてサイラスに会った印象寂しそうな眼をしている人だと表現している。

それは、サイラスにも暗くつらい過去があったからだ。

それは、彼が少年の頃、両親と双子の妹が殺された過去があり、その犯人は実の兄だったのだ。

双子の妹たちは無残にも切り刻まれた。

その時、担当した刑事 レニー・パーヴェル は今警部となっている。

当時パニック状態のサイラスに優しく接してくれ、レニーはそれからサイラスの最大の支援者であり、最も手厳しい批評家であり、義母であり、容赦のないおばであり、友人であり、同志であり、一番の理解者である。

サイラスは、臨床心理士として警察の捜査にも数多く協力している。

そんな中、行方不明だったジョディ・シーアン15歳が雑木林で死体となって見つかった。

その捜査でレニーに頼まれ協力をすることになる。

ジョディはフィギュアスケートのチャンピオンで有名人であった。

 

一方イーヴィは、18歳になると施設を出ることが許されるが、実年齢が分からないため、あと1年先に延ばされた。

サイラスはノッティンガムに古いが大きな家を持っているので、専用の部屋を提供し里親になると申し出た

友人のガスリーにはイーヴィは素行が悪く危険だからと反対された。

学業を続けるか、職業訓練を受けるか、仕事に就くかするようにと判事にいわれ、イーヴィは不承不承ではあるけれど施設にいるよりかはましだと承諾した。

 

そして、サイラスは、手のかかるイーヴィとの生活に入る

 

人間心理の専門家であるサイラスであっても、イーヴィは一筋縄にはいかない。

イーヴィは嘘を見破る特殊な才能があるので、サイラスは彼女に嘘をつけない。

嘘だとわかれば、自分を信用してくれなくなり、イーヴィの本名、出自や事件の詳細など彼女の多くの秘密を彼女の口からは訊くことができなくなる。

 

サイラスは、時を同じくしてイーヴィと殺されたジョディの2つの事にかかわることになった

どういう展開になっていくのか、興味が募る。

 

 

サイラスは30代前半の臨床心理士

家には固定電話もなく携帯も持たずポケットベルのみ

ある日、イーヴィが目覚めたとき、音がするので地下に降りて覗いてみたら、サイラスが重いバーベルを持ち上げ、まるで自分に拷問を強いているかのようだった。

体中には鳥の刺青がある。

ここの描写はちょっと、強烈な印象を受けた。

なんとも、不思議で変わった男のイメージ。それは、彼の過去に由来する。

両親と双子の妹が兄に無残にも殺され、自分一人が生き残ってしまったという自責に自虐的なものを感じる。

イーヴィが初めてサイラスに会った時、彼が寂しそうな眼をしていると感じたのも、彼の暗い過去が起因しているのだろう。

そしてイーヴィは社会性に欠けるが、高い知能を持ち、嘘を見抜く特別な能力を持つ。

この異質な二人の関係が一つのストーリーとなり、もう一つが15歳のフィギュアスケートのチャンピオンであるジョディの捜査となる。

この二つが並行して進んでいく。

 

この小説の原題は『Good Girl,Bad Girl(良い少女、悪い少女)』である。

本の内容は、この原題で理解できる。

15歳のジョディ

18歳のイーヴィ

さて、どちらが良い少女で、どちらが悪い少女なのか。

 

マイケル・ロボサムの文体は特徴的で、現在形を基本文体として書かれている。

一見、歯切れがよさそうに思うので読みやすく感じる人もいるかもしれないけれど、それは部分的にはね…

ロボサムの全作品がその形式をとっているらしい。

訳者あとがきによると、語り手の内面に迫る生々しさや臨場感を際立たせるためらしいが、ちょっとその効果があるとは思えなかった。

過去形の方がいいと思う場面も多々あり、最後までこの文体は慣れなくて気になった。現在形と過去形を混在させたほうがいいように思ったんだけど…

 

この本は読者レビューではずいぶん高評価を得られている。

 

はっきり言わせてもらえば、この本は私には向かないと感じた。

 

最後までスピード感があってすごく面白かったという評価も多いのに、私は上巻が終わっても、スピード感はあるとは思えなかったし、面白いとも思えなかった。

最後の最後の展開は、ばかばかしくて読んでいられなかった。

大体、18歳の娘を30歳そこそこの独身男性が里親になると提案して、その場で判事がOKを出すなんて、そんなことあり得るのか いくら臨床心理士だとしても… 

 

ほかに、どうしても好きになれない部分がたくさんある。

でも、ここに書くとこれから読もうとしている人に本をけなす<嫌な奴>と思われるので、詳細は書かないことにする。

 

本書では、イーヴィの謎は明かされないままで終わり、次作の『天使の傷』ですべてわかるらしい。

次作を読むかどうか、ちょっとわからない。