『灰かぶりの令嬢』
カーラ・ケリー 著 mirabooks
家族のため、この髪を銀貨に換えて。
19世紀英国の港町で、清貧のシンデレラに訪れた奇跡
カーラ・ケリー〈海峡の英国紳士〉シリーズ
名作の呼び声高い第1弾、新装版で登場!
【内容(「BOOK」データベースより)】
英国の小さな港町の片隅でエレノアはひもじさに耐えていた。
子爵の非嫡出子であるばかりに世間から見放され、
宿屋を営む祖母と暮らしているが、半年も客が来ない。
ついには長い髪を切って売り払ったとき、
港に停泊した船の艦長オリヴァーが宿泊に訪れる。
到着するなり体調を崩したオリヴァーを看病したエレノアは、
やがて彼の優しさに触れ淡い想いを募らすが、
人並みの幸せなど望めるはずもなく……。
1808年の プリマス。
長引く戦争で国中の人々が困窮した生活を余儀なくされていた。軍港プリマスは、海峡艦隊がフランスの海岸沿いを海上封鎖しているため、特に不況に見舞われていた。
ヒロインは エレノア(ナナ)・マッシー、21歳。
ラトリス子爵であるウィリアム・ストークスの 私生児 として生まれた。
母親は出産時に亡くなり、祖母に育てられた。
父親に入れられた<ミス・ピムの女学校>を5年前に放り出され、宿泊施設経営をしている祖母のもとに戻ってきていた。
食べ物もままならず、ナナは長い髪をカツラ屋に売り 今は短髪 になっている。
一方ヒーローは英国海軍艦タイアレス号の艦長の オリヴァー・ワージー30歳。
ワージーは損傷を受けた軍艦タイアレス号を乾ドック(dry dock)で修理を依頼することにして、乗員は陸に上がっている。
修理は2か月以上かかるというところを交渉で3週間半に短縮するように半ば強制的に頼み込んだ。
直属の上官であるラトリス子爵(ナナの父)にワージーは海峡の動きを報告しなくてはならない。
そこで、彼はラトリス子爵からある頼みごとをされた。
当時16歳の少女ナナの細密画を見せられ、子爵の若気の至りで過ちを犯した末の結果の子であることを明かされた。
細密画の少女は、とても美しい娘だった。
そして、その子が今どうしているか報告してくれということだったがワージーはどうもこの子爵は胡散臭くて好きになれないが上司であるため結局依頼を受けた。
ワージーがナナの祖母が経営する<マルベリー亭>に行ったとき、体調が思わしくなかったものが一気に悪化して、そこで嘔吐と喉の猛烈な痛みと耳の痛みで、病に伏すことになる。
<マルベリー亭>は今では、宿泊だけで食事は出すことはしていない。
余裕がないのだ。客は半年の間一人もいない。
ワージーの体調はかなり悪く、看病される中、ナナがあの細密画とは違って髪を売って短髪であること、また痩せていることに心を痛める。
食べるものに事欠いている様子で、部下に肉などを届けさせたりして、ナナと祖母と使用人二人にも食べさせるようにした。
ワージーはラトリス子爵に娘がどれほど貧しい暮らしをしているかを報告しなくてはならなかったが、なぜかマルベリー亭は通常通りの営業で、ナナについては何のご心配もいりませんと報告した。
ナナは女学校で読み書きを勉強していたため、祖母はいい家庭の家庭教師などの職に就いてほしかった。しかし子爵の非嫡出子であるため、それは叶わぬことであったし、結婚も難しいとナナはあきらめていた。
一方、ワージーは戦争の中、陸で待っている妻や恋人たちが、船が着くや心待ちにしていたのに、戦死を伝えられ泣き叫ぶ声や姿が忘れられず、自分には愛する人に悲しい思いはさせたくないと結婚はすまいと考えていた。
そして、そんな二人がどのように恋を成就させるか、お定まりのロマンス小説ならではのストーリーになっていく。
これは、作者の腕の見せ所で、下手な作家はチープなロマンス小説にしてしまうし、さて上質のロマンス小説にして頂戴ね、カーラ・ケリーさん。
中盤くらいまでは、あまり 起伏のないストーリーで、ちょっと退屈。
ロマサス本はときどき読むけれど、それもサスペンス色の方が強くてそこにロマンスも少し入るというのが好き。
この本は中盤を過ぎると、サスペンス色は出てくるものの、ロマンスの方が色濃い。
ナナが<ミス・ピムの女学校>で、レディとしての礼儀作法など教育されていたのが16歳の時に出されてしまったのは、父親が友人からの借金を帳消しにするためにナナを愛人として売ろうとしたからだ。
ナナが断ると、学校の支払いを父はしてくれなくなり、祖母のところに帰ることになった。
ラトリス子爵の話が前半に出てきてから、しばらく出てきてなかったが後半になって、やっと悪者ラトリス登場。
戦時中なのでナナの宿泊所に画家としてスパイが紛れ込んでいたり、それもそのスパイを動かしているのが父親のラトリス子爵。
ラトリスの悪事を暴かなくてはならない。
ラトリスはワージーの直属の上官なのだから、この二人の関係が敵対してくる。
そんな中、ワージーが捕虜として捕まり、フランス側と捕虜交換が行われることになった。
そこからが緊迫感たっぷりのサスペンス、スリル感でやっと面白くなってくる。
最後はめでたしめでたしになるのはわかっているので安心して読んでいられる。
まあ、ロマンスが主の物語だから、サスペンスものとしては物足りなかったけれど、なにせ、この前に読んだ『屍人荘の殺人』があまりにも、おぞましく恐ろしかったので、この本で心穏やかに落ちつけたので良かった。
タイトルの『灰かぶりの令嬢』は、「灰かぶり姫」つまりシンデレラに重ね合わせてつけた題名なんでしょうけれど、ちょっと違和感ありだったのが残念。
さあ、これで『屍人荘の殺人』の続きの『魔眼の匣の殺人』を読む準備はできた。😊