『汚れなき子』

ロミー・ハウスマン 著 小学館文庫

 

 

下記がキャッチコピー

 

・デビュー作にして見事なページターナー!

・2020年、ドイツ推理作家協会賞(正称:フリードリヒ・グラウザー賞)最終候補作!

・ドイツ・アマゾンのレビュー1690超、★平均4.5!

・米国アマゾンのレビュー2760超(2020年10月発売、半年累計)、★平均4.5!

・今後ドイツのスリラー界を担う最右翼新人作家の作品を、満を持して紹介する。

 

【内容(「BOOK」データベースより)】

 

真夜中、ひと組の母娘が救急車で病院に搬送された。自動車事故だった。母親は重傷を負ったが、娘は幸い無傷だった。母親が救命処置を受けている間、少女は看護師に身元を聞かれるが、少女は母親の名前がレナであること以外は何も明かさない。

そして「私たち、見つかっちゃいけないんだよ」と囁いた。

やがて口を開いた少女が語ったのは、事故の夜、母親がうっかり父親を殺そうとしたこと。小さな弟が今もひとり<小屋>に取り残されていること。そして、<小屋>での異様な暮らしぶりだった。

 

汚れなき子

 

 

冒頭にミュンヘンで女子大生(23)が行方不明になった記事が書かれている。

 

女子大生 レナ・ベック はパーティーに参加した帰り道で友人と通話の後、携帯の電源が切られ連絡が取れなくなった。

ミュンヘン警察が捜査を開始したが手がかりは見つかっていない

 

 

この物語は3人の視点・一人称で語られていく形式になっている。

車の事故に遭った レナ とその娘 ハナ と冒頭にある行方不明になったレナ・ベックの父親 マテアス・ベック の3人。

 

 

レナ・ベック が行方不明になって14年が経っていた

 

ある母娘が自動車事故に遭い病院に搬送された。母親は重傷で意識不明。娘は無傷。

ルートという女性看護師が少女に身元を聞くが要領を得ない。

母親の名は レナ で、少女は ハナ13歳ということはわかった。

家族に連絡しようにも、家に電話はないと言う。

パパに連絡するのに住所はと訊くと、「私たち、見つかっちゃいけないんだよ」 と言った。

 

その後、少女が語ったのは、事故の夜、少女の母親が父親を殺そうとしたこと。

11歳の弟ヨナタン がひとり今も〈小屋〉に取り残されて、父親から流れ出た血液の汚れを掃除していること。

〈小屋〉は森の中にあり、部屋の窓は閉ざされ、空気循環装置を使って空気を送り込んでいること。

 

看護師は警察を呼んだ。

 

 

14年間、娘レナ・ベックを探し続けている父マティアス・ベックはミュンヘン警察のゲルト・ブリューリングから連絡を受けた。

ゲルトは以前友人だったが大事な娘を見つけてくれなかったことに激怒し、友人関係を解消していた。

ゲルトは、レナ・ベックらしき人物 が事故で、カームの病院にいると言う。

 

マティアスは確認のために急いで病院に向かった。

 

重体の病人は娘ではなかった。

 

ところが、その病人の娘のハナを見かけたとき驚愕した。

娘のレナ・ベックに瓜二つだったのだ。

これはどういうことか。警察に娘の写真を見せてそっくりであることを確認してもらった。

そして少女の名前は ハナ で、レナの祖母の名前だったのだ。

 

 

この母親の名前はレナではなく ヤスミン・グラス であることが分かったが、いったい本物のレナはどこに行ったのか。

ヤスミンもハナも何も語らない。

ここからは、レナの視点がヤスミンに代わり語られる

 

その後、警察は小屋を探し出し、男の死体を見つけ、ハナの弟ヨナタンを保護した。

男は顔をメツタ切りされて顔がよくわからないし、身元が分からなかった。

ハナとヤスミンに聞いてもパパとしか呼んでいなくて名前は知らないという。

 

それぞれの章の最後に謎を読者に突き付けて次の視点に切り替わるので、焦らされる格好になる。

次々と謎が謎を呼び、ますます混沌としてきて全貌が見えてこない。

 

これ以上は内容については語らないほうがよさそうだ。

 

 

 

この小説は冒頭から引き込まれる。それほど興味を惹かれる。

母親が意識を取り戻し、母と子の語る内容が異様なことに驚かされる。

いったいどういうこと?とその先が知りたくて夢中になっていく。

まさしくページターナーとはこういうことだ。

 

このハナという少女は医者の見立てでは アスペルガー である可能性があるということだった。そして小屋の中だけの生活でビタミンD不足のせいか、かなり小柄で13歳には見えない。

アスペルガー特有のある種のこだわりを持つ。

それは言葉の意味を辞書の説明文そのまま一字一句正確に記憶し、複数の外国語も理解する。

でも、コミュニケーション的には障害がありそうだ。

 

この少女の存在はかなりこの小説に重要な役割となり、ふと映画「エスター」を思い出したが、内容は全く違うのでそこは先入観を持たないでほしい。

 

後半は二転三転が繰り返され結末までは一気に突き進む。

 

監禁の犯人は明らかになった。思いもしなかった人物。

犯人の語りで全容が見えた。

 

エピローグは、この小説の異色なところだ。

この章が一番、著者が書きたかったところなんだと読者は理解する。

 

人間、愛する対象なくして生きられるか

それが歪んだ愛だとしても…

 

読後感はなかなか意味深いものとなった