私がこの仕事についてから7年になる。
その時から通所していた男性が先月末、突然よそに入所になると聞かされて私だけではなくスタッフ全員がショックを隠せなかった。
30代でまだ若いし、それに私の勤めている施設には入所施設もあるので私達は当然彼はいづれはそこに入所になるだろうと思っていた。
それももっと遠い未来に。
でもご両親が病弱ということもあり以前から私の勤める施設への入所を希望していたけどなかなか空きがなく、他にも数か所申し込みをしていたところが急に空きが出て早めの決断を迫られたらしい。
両親の本当の希望は私達の施設への入所だったけど、それがいつになるかわからないということで今を逃したらまた当分ないのでは、、と苦渋の決断をしたということだった。
その男性は先天的な脳の障害で、両手両足は不自由がないけど、脳障害が大きくて、トイレも食事も介助が必要。
言葉を発することも出来なくて、奇声を発したりうなったりしている。
常に体には力がはいっている。
人と目を合わせない、、というちょっと自閉症的なところもある。
はじめはどうやって彼とコミュニケーションをとろうかと思っていたけど彼は人と手をつなぐのが好きでいつも誰かの手を探していた。
だから会話は出来なくても手つなぎで彼と繋がっていられた。
食事の拒否はすごくてなかなか口をあけてくれない。
調子のいい時でも体を前後に揺り動かして呼吸を整えてやっと口を開けてくれるので一口食べるのにも時間がかかる。
いつ口をあけてくれるかわからないので彼の口のそばに食べ物をスプーンに乗せてずっと待っているという感じ。
昨日、彼の食事を介助していたけど、途中でこみ上げるものがあった。
ここをやめると聞いてはじめて私はかれのことが大好きだったと気付いたのだ。
私のことや他のスタッフの事も理解しているのかどうか、、手をつなぐ以外はなんのコミュニケーションも取ろうとしない彼になんらかの感情があるのだろうか、、と思う事もある。
不思議なものでスタッフも彼が誰に対して手をさしのべているのか、、ということがちょっと気になってるみたい。
きっと誰もが彼は自分と手をつなぎたいんだよね、、なんて思ってる。
でもほんとは誰でもいいんだろうな、、とも思ってる。
わかっていても自分の方に手を差し出してくれるとうれしかったりする。
障害者がみんな無垢であるなんてことはないけど、私達のなかではやはり彼はどう見ても無垢な存在だ。
人間の持つ複雑ないやらしい感情を彼は持っていない。
7年彼のそんな姿を見ていて、気付いたら愛おしい存在になっていた。
来週いっぱいで彼はいなくなる。
まだその現実を受け入れられないでいる。