2014年4月5日、真夜中。
数多生まれは消えていく、お笑い芸人のラジオ番組。そのうちの一つが産声を上げる。1人はラジオを愛し、料理が大好きなキザな男。1人はラジオの勝手を知らず、「サイクリング」の綴りが書けない男。
青春時代を共に過ごした幼馴染コンビのラジオが、リスナーの私たちに知る由も無い郷愁を与えてくれる点から【部室】と評される中、僕にとってうしろシティのラジオは、なんだろう、語弊はあるかもしれないが、【合コン】のような番組だった。
生まれも育ちも違う2人、大人になって知り合った男たちが、女性(この場合はリスナー)を喜ばせようと、2人並んで話している。でも、気付けばアタシを口説くことを忘れて、他の人なんてそっちのけで、馬鹿話をし始めた。そしたら楽しくなっちゃって、たまに合いの手(メール)を入れたりして。そんな感じ。
ラジオを通して、相方の「知らない部分」が見えてくる。良い意味で思い出を共有していない、同級生コンビにはない少しビターな関係性が、たまらなく心地よい。
時は流れ、仄暗い深夜4時からテッペンに浮上し、“冠”を手にした彼らのラジオは、少し変容した(気がする)。
『正統派コント師』の2人、定型を抑えるという点では、【オープニングトーク】→【フリートーク】→【ネタコーナー】→【エンディング】と、ラジオ番組の黄金比を踏襲しつつも、局が聴取率を調査する特別な週「スペシャルウィーク」で、その黄金比を引っ掻き回す。
「リスナーの皆さん、来週は、
玄関で靴を履いておいてください」
なんだそりゃ。
一体、何を言っているのか?
スペシャルウィークの度に彼らは、リスナーをわざわざ赤坂のTBS(の謎のウルトラマン像の前)に召喚し、悪ふざけに加担させる。
番組ブログの集合写真、倍々に増える共犯者たち
職場が赤坂にある自分はいつも、同じ時間、200メートル離れた建物で仕事をしていたものだ。「ちょっと行って、見てみようかな」今なら、そんな自分の背中を無理矢理にでも押してあげたい。
「リスナー参加型」(物理的な)の『うしろシティ 星のギガボディ』は、既に開始当初からその“動的な企画性”を発揮していた。
回を重ねるごとに、その個性は色濃くなる。
アルピー平子さんの無茶振りで(そういえばこれもそうか)金子さんがアメカジファッションに挑戦したり、毎週オープニング数分のために金子さん自ら街頭インタビューを敢行したり、リスナーに映画のレビューの宿題を出したり、生放送中に親同伴でリスナーを赤坂に呼んだり、かと思ったら急にお台場でリスナーを待ってみたり、そしたら来たり、シイタケの原木をコンビでリレーしたり、そんなシイタケを生放送でただただ焼いて食べたり、父親を騙して描かせた絵をノベルティにしたり、ハードロックカフェでアメリカ人とゲリラNFLトークしたり、オープニングで急に母に電話したり、父に電話したり、姉に電話したり…。あとその間に、23回くらい、それぞれキャンプの話と雪の話をしている。
話題に事欠かない2人だが、同じ24時台を担当する「アルコ&ピース」「ハライチ」と比べた知名度の低さは、度々自虐的に笑いにしていた。そんな“自虐性”が積もりに積もって、発酵に発酵を重ね、平成の終わりとともに大爆発を引き起こす。まさに今、金子さんのネットニュースの頭に付けられる「令和の怪物」という二つ名を生み出した、数週・数番組を股にかけた一大スペクタクル。
「革命を起こす」という怖いもの無しの特攻と、淡い恋心を和えて、時系列を少々。流石の阿諏訪さんでも二度とサイゲンできないような、味わったことのないラブレボリューションな放送が展開された。(ここに書いている文章を読むだけでは、全く意味が分からないと思うが、「そんな人に分かってたまるか」という気持ちもあるので、詳しくは書かない)
「令和の彼らはひと味違う」リスナーを集める。自ら街に繰り出す。とにかく足を使って、汗をかく。積み重ねてきたものと、新たに手に入れた化け物のような推進力、完璧な準備の整った地盤にひとしずく、再び外からの「無茶振り」が落ちてきて、バタバタバタとドミノが倒れ始めた。
ここまでの数年間の軌跡の先に、今回の「ヘヴィメタル編み物世界選手権」優勝があった。ように思う。タダでフィンランドに行けるから応募して、あれよあれよと決勝に進出して、そしたら無料招待そのものが勘違いで、リスナーから渡航費を募ったら集まりすぎて税金に首を絞められ、結果的に優勝した。
なんだそりゃ。
一体、何を言っているのか?
深夜のラジオ番組、リスナーだけに話してくれたことが、たまにテレビのバラエティ番組の鉄板トークとして、イベントとして、色んな日の当たる場所で、たまにひょっこり顔を出すのが「俺らは知ってるんだぜ」と、とても嬉しい気持ちになるのだが、さすがに「めざましテレビ」に取り上げられると、笑ってしまいます。
※余談ですが、自分はめざましエンタメ月曜担当のため、できれば仕事として、金子さんのニュースを扱いたかったな、と少し悔しい気待ちもあります。チマチマと深夜4時からの番組にメールを送ってたハガキ職人の大学生が、5年後に朝の情報番組で、そのパーソナリティが「ヘビメタ編み物世界チャンピオン」になった、という原稿を書いていたら、それはもう、意味が分からなすぎて面白いからです。
「ラジオの良いところ」たくさん挙げるのは簡単ですが、こんな「言葉にならない体験」をさせてくれる『うしろシティ 星のギガボディ』は、さすが24時台三兄弟の“ど真ん中水曜日”を張ってるだけあるな、と思います。
ヘビメタ編み物バブルの後、しばらくまた落ち着いた通常回が続いたりして、たまにまた、リスナーに「なんだそりゃ」の拍手喝采をさせてくれる、そんな感じで、息の長い番組になっていってほしいです。
どこに行ってもついていけるよう、
靴を履いて待ってます。