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★社労士kameokaの労務の視角

ー特定社会保険労務士|亀岡亜己雄のブログー
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テレビ報道で取り上げないだけで、長時間労働で労基署から是正勧告されることは、頻繁に行われている。それ自体はめずらしいことではない。そもそもテレビは視聴率につながらない話題は、一切取り扱わない傾向にある。労基署の是正勧告のニュースぐらいでは視聴率が取れないのであろう。

 

今回の事案は読売新聞のニュースになった例であるが、では、なぜ今回の企業はニュースになってしまったのか。長時間労働の次元がけっこう凄いからではないかと受け止めている。以下に記事を引用して掲載する。

 

 

人気洋菓子店「パティシエ エス コヤマ」の運営会社(兵庫県三田市)が、社員らに「過労死ライン」を超える月100時間超の時間外労働をさせていたとして、今年までの3年間に2度にわたって、伊丹労働基準監督署から労働基準法違反で是正勧告を受けていたことがわかった。1度目の勧告を受けた後、改善していなかった。労基署は長時間労働が常態化していたとみている。

勧告は1月14日付と2018年1月15日付。

同社の説明によると、同社は、労使の合意に基づき、時間外労働を「月100時間未満」と定めていた。しかし、18年の是正勧告で、製造や販売などに携わる社員ら約100人のうち、半数超の55人が100時間を超える時間外労働をしていたと認定された。その後も改善しなかったとして、今年1月に2度目の是正勧告を受けたという。

また、同社では、社員ごとに労働時間を定め、固定残業代を支払った上で、所定の労働時間を超えた分を別に支払う仕組みだった。しかし、一部の社員に超過分を払っていなかったという。

同社広報室は取材に事実関係を認め、「1度目の勧告の後、担当した社員が退職し、是正勧告について社内で共有されなかった。今は改善している」と釈明。2度目の勧告に対する改善報告書を現在作成中で、労使協定の内容を見直し、未払い残業代について、労基法に基づき、過去2年分を今後支払うとしている。

同社は、1990年代にテレビのコンテスト番組で活躍した代表取締役の小山進氏(57)が、99年に有限会社として設立。2011年に株式会社化された。小山氏は、世界的なチョコレートの品評会で最高位に輝いたこともある有名パティシエで、ロールケーキ「小山ロール」で知られる。三田市にある店舗のほか、ネットでも販売している。

同社によると、現在の社員と契約社員は計約110人。19年8月期の売上額は約20億円だったが、コロナ禍で20年8月期は約1割落ち込んだという。

 

小山氏は「手作りへのこだわりが評価され、魅力を感じてやる気のある人材が集まっていた。だからといって法律に違反していいわけではなく、反省している。今後働き方の改善を進める」と話した。

 

◆時間外労働=労働基準法で定められた「1日8時間週40時間」を超えた労働。労使協定(36協定)を締結すれば「月45時間、年360時間」を上限に認められ、労使が特別条項に合意した場合、年6か月以内に限り「月100時間未満」まで延長できる。ただし、年間720時間を超えてはならない。厚生労働省は、脳や心臓の病気で過労死として労災認定される目安を「発症前1か月に時間外労働がおおむね100時間」としており、「過労死ライン」と呼ばれる。

 

「パティシエ次々辞める」

「若いパティシエが使い捨てのように扱われ、次々辞めている」。従業員の一人が、読売新聞の取材に同社の労働実態を打ち明けた。

同社の製造部門では「LINE(ライン)」のグループチャットで、出退勤時刻を管理職と共有する仕組みだった。従業員のLINEの履歴によると、従業員は昨年のクリスマス前、午前4時頃から午後9時頃まで働くこともあった。3日しか休みがない月や、時間外労働が200時間を超える月もあり、月の時間外労働が300時間を超える人もいたという。

従業員は「みんな疲弊していたが、会社は『嫌ならやめればいい』という雰囲気で、声を上げられなかった」と言い、心身の調子を崩して入社後数か月で退職する社員もいたという。

従業員は「みんな小山さんに憧れて入社した。ボロボロになっていく姿を見るのはつらい」と訴えた。

 

「一人前になるまでは修業」の意識根強く

総合サポートユニオン(東京)の池田一慶執行委員の話「社員の意欲を利用して、長時間労働やサービス残業をさせる行為は『やりがい搾取』と呼ばれる。飲食業界は、労使ともに『一人前になるまでは修業』という意識が根強く、違法労働が横行している恐れがある。長時間労働は命にかかわり、意識を変えるべきだ」

 

今回の事案は、100時間を超える時間外労働があったこと、支払っていた固定残業代に不足があったこと、3年間で2回の是正勧告を受けたことが柱になる。

 

3年間で2度となると是正勧告事案でも、多くはないであろうと推測する。最初の是正勧告で改善していなかったことも汚点になった。真実はわからないが、最初の是正勧告では一端、改善したのかもしれない。その後で再び長時間労働になったのかもしれない。ここはわからない。

 

ただ、2018年の是正勧告では100人のうち55人が100時間を超える時間外労働の実態にあったことは、相当目立ってしまったのは事実である。55人と半数を超えること、時間外労働のレベルが100時間を超えるという過労死認定水準であることは、どうしようもない状況であったとしかいえない。

 

今年に2度目の是正勧告の際には、行政機関から長時間労働の常態化とみられてもいたしかたない。ただ、労基署の残業代の支払いや是正勧告レベルでは、この洋菓子店に対する顧客の購買心理・行動には影響はしないと思われる。お客は、労基署絡みの出来事があったからといって、この洋菓子店の消費を買い控えしたりはしない。食べたいという思いに影響がない領域の問題である。

 

同社の広報室は、最初の是正勧告後に担当者が退職し、是正勧告について社内で共有されなかったと話している。しかし、あくまでも一般的は話であるが、労基署から是正勧告を受けたことは、経営陣だけが押さえて、社内で共有はしないところが多い。同社の考えはどうだったのかは記事からは不明である。労務対策上は、共有化するのが望ましいと言える。ぜひ、取り組んでほしい。

 

労使協定を見直し2年分の未払い残業代を支払うとコメントしているが、未払い残業代の支払い義務は、法律上の義務なので、労使協定の内容は関係ない。また、労使協定を見直すことはあまり関係ない。

 

長時間労働をどのように少なくしていくかを対策しない限り、長時間労働が発生していくことになる。残業代という金銭を適法に支払うことと問題は別である。長時間労働は、安全配慮義務、健康配慮義務の話である。過労死、その他長時間労働に起因する疾病を発症した従業員が出てからでは取り返しがつかない。固定残業代のテーマは法的なリスクを含めて別な機会に書きたいと思う。

 

もし、そうなれば労災問題もやってくる。長時間労働の付けは大きい。果たして、従業員は病気を発症したりはしていなのであろうか。記事ではそこまでは記載はないが、不安にはある。従業員もかなり疲弊しながら働いていたようであるから、健康的な不安を抱きながらの就労だったのであろうと推察する。

 

「労働時間なんか短くできないないよ。無理だよ」こうした話は一般的によく登場する。小職も幾度も言われたことがある。行政機関は、何を言っても「改善してください」としか言わない。それはもっともである。とにかく、理屈抜きで、労働時間を短くしなければならないのである。電通事件が反面教師であると心してほしい。

 

読売新聞が従業員の1人に取材しているコメントをみると、時間外労働200時間、300時間との話も言っている。もしそうであったならば、過労死の領域であったことになる。会社の「嫌ならやめればいい」は、そこそこ登場する話ではあるが、労務対応になっていない。よくない。従業員は声を上げられなくなる。風通しの悪い職場であり、自分の意見や考えを言えない社風を作ってしまう。

 

社内の職種を問わず、入社した従業員が辞めていく職場は、従業員が如実に感じ取れるほどの相応の労務リスクが実在していることを物語っている。経営陣はそこに向き合わないといけなかった。

 

お客がいて、業務が多忙で、売り上げも利益も相応にあがることは間違いない。しかし、だから、忙しいまま労働せよは成り立たないし、社会では通らない。企業都合の押し付け労働になる。

 

記事を読むと、パティシエに希望を抱く従業員は、修行の意識も強いから、従業員も長時間労働を修行の一形態として辛坊していたことも考えられる。職人の世界感がある。

 

しかし、従業員がそのような認識でも、経営陣は、そこに合わせて職場を運用してはいけない。客観的な尺度が求められる。そうでなければ、主観的には、時間に関係なく、忙しいのだから、8時間労働も何も関係ないとの方向に傾くことになってしまう。

 

すべての事実はわからないが、従業員が倒れたり、病気になったりしていなかったのならば、幸いである。法律の規定がどうではなく、企業として、従業員の健康管理を第一に、そして、長時間労働をさせないでも、経営が成り立つ労務体制。労務の仕組みを構築することに懸命になってほしいと切に願う。

 

【特定社会保険労務士 亀岡 亜己雄】

 

 

助成金の不正受給に関するニュースが流れた。誰かのうわさではなく、しっかりとしたネットニュース記事で表示されるから、デマではないし、デマで片づけることもできない。不正が多い助成金なので、取り上げておくこととする。

 

記事の内容は次の通りである(公開記事の引用)。

 

旅行会社「ワールド航空サービス」(東京)が、コロナ禍の影響などで従業員を休ませた事業者に支給される雇用調整助成金(雇調金)を不正に受給していた疑いがあることがわかった。菊間潤吾会長が10日朝、報道陣の取材に明らかにした。東京労働局は支給を停止し、調査している。菊間氏は日本旅行業協会(JATA)の会長を務めている。

菊間氏によると、今年10月に東京労働局から不正の疑いを指摘され、外部の弁護士を含む第三者委員会を設けて調査を始めた。同社は昨年3月分から受給を始めたが、実際には休ませずに働かせていた疑いがある。

菊間氏は不正の有無を含めて詳細を把握していないとしたうえで、調査結果を近く公表する考えを明らかにした。

 

JATAは全国の旅行会社約1100社が加盟する業界団体。菊間氏は2012~14年に会長を務めた後、前会長の坂巻伸昭・東武トップツアーズ社長の急逝を受けて今年7月に再び会長に就いた。旅行業界はコロナ禍で訪日客が大幅に減り、国内旅行の自粛要請期間も長引いて、厳しい経営環境に立たされている。政府はコロナ禍への対応として支給額の上限を引き上げるなどの特例を昨春から拡充してきた。

 

昨年からの新型コロナ感染症の関係で、政府や厚生労働省がその活用を勧めたこともあり、雇用調整助成金はすっかり有名になった。雇用に無関係な一般の人の中でも、聞いたことがあるというくらいだ。労働者の立場でも認識している割合は高いのではないかと推測する。

 

国から見ると、とても勧めやすい代物が、雇用調整助成金だ。社労士業界の中では、雇調金と言っている。コロナで経営が苦しくなって従業員を休ませざるを得なくなった。それでも何とか雇用を維持してもらえませんか。給料をなんとか払って雇用を維持してもらえれば、助成金を出します。雇調金のメインはここにある。

 

細かい話ではあるが、当初は、提出書類が難しい、電話がつながらないなど、その手続きは決して順調にいく状況ではなく、苦労した企業も多かったと聞く。

 

今回の事案の話をしたいと思う。日本旅行業協会の会長の会社というところで、マスコミニュースの対象になったことも否定できない。雇調金を申請した企業は相当数あるはずで、不正受給の話も決して少なくはないはずである。

 

記事によれば、不正受給していたとあり、昨年3月から受給していたとあるので、雇調金は相応な期間に渡って受給されたということになる。しかし、「東京労働局は支給を停止し」とあるから、この10月に不正の疑いが発覚し支給が停止されているということのようだ。

 

指摘されている不正の内容は、従業員を休ませずに働かせていたこのようだ。少し、補足しておくと、雇調金は、経営が苦しくなっても雇用を続けて賃金を払うことだけが条件ではない。仕事の減少などにより従業員を休ませなければならなくなり、実際に休ませていることが必要である。

 

雇調金の不正行為の多くは、今回のニュースと同様、休ませずに働かせて賃金補填を雇調金で行っていることにある。働いた分の賃金を支払って、支払た分を雇調金でカバーするものだ。どの程度、働かせていたか、ある程度は休ませていたのかなどは記事からはわからない。

 

ただ、わずかでも、不正があれば不正受給の対象になる。書類上のミスなどとはレベルが異なる。ミスは、企業や人間が意図する故意の行為ではないが、不正行為は、意図した故意の行為だ。

 

弁護士による第三者委員会を立ち上げて社内調査とあるが、真実、不正行為がないならば、疑いをかけられた不正行為の有無だけの話であるから、助成金の不正受給に関しては無駄な行動になりかねない。助成金の種類を作成した従業員、書類、実際の勤務状況、これらを確認すれば容易に判明する。

 

ここに実態がある限りは、事実は隠せない。ところが、助成金の申請は紙ベースである(コロナの状況から一部ネット申請も可能であった)。帳簿はやろうと意図すれば、いかようにも作成できてしまう。休職か出勤かの記録、働いた時間などはその典型である。社会保険労務士としては企業のそのような行為は非常に恐ろしい。

 

休ませていない(働かせていた)場合には、弁護士が何か反論を工夫したり、主張を考えてなんとかなる世界でないのが助成金である。

 

ハローワークの窓口の机には、雇調金に関し注意を促すリーフレットが貼ってある。だいぶ前から目に入る形で掲示してある。不正行為が多いこと、助成金受給後の調査の場合のことなどである。小職が認識している限りでは、確か、従業員への聞き取りもする意向のことが書いてあったと思う。また、抜き打ちで調査が行われることも書いてあったと記憶している。

 

かなり前から案内があったのである。実は、雇調金はコロナが話題になってから有名になったが、助成金の始まりはかなり古い。古くからある助成金で、以前から不正受給が多いことで有名な助成金である。受給後に労働局や会計検査院の調査対象になる可能性がある。

 

記事によれば、不正受給の疑いとのことであるが、火のないところに煙はたたないという言葉が頭を過る。労働局が支給を停止するからには、火があると思われても仕方ないかもしれない。あるいは火にあたる個所を見出したのだろう。大きな火か小さな火かはわからないが、何らかの事実があると考えられる。

 

助成金への考えは理解できるが、助成金はお金の世界の話と考えてはいけない。労務の世界のことなのだ。従業員の雇用継続、休職、賃金の支払いが大きな柱だからだ。ないよりも、助成金の財源は、事業主が国に支払う雇用保険料である。

 

助成金申請業務が、社会保険労務士しか許されない独占業務となっている理由の一端でもある。お金のことだとひとまとめにして税理士に相談する経営者が多いと聞くが、税理士の業務ではないから解決にならないであろう。そもそも、税理士が助成金業務に携われば社会保険労務士法違反の対象になる。

 

助成金は要件や申請するタイミングなど細かいため、かなりの神経を使う。他の支援金や給付金とはまた、色合いが違うのである。詳細を知り、よくよく確認をしてとりかからなければ対応はできない代物である。

 

もっとも、今回のニュースは、そんなことは関係ない。従業員を休ませていたかどうかが最大の問題であり、雇調金のよくある典型的な不正行為に関係する疑いである。航空関連の企業なので、コロナ禍の中の事情は理解できる。しかし、もし、不正なのであれば、理由を問わず許されない行為である。

 

もし、不正受給が確定すれば、少なくとも一定期間、今後の助成金申請ができないなどペナルティは大きい。また、社会が徐々に正常化していって、経営回復とともに人材の雇用を必要とすることも考えられる。

 

助成金で不正受給の疑いがある企業ということが、知れ渡っていた場合には、求人や雇用にも影響してくる。企業イメージは、何よりも重要である。

 

労務全体に言えることだが、企業は、どんなに状況が苦しくても、経営や労務を取り繕うことを考えずに、向き合うことが、健全な労務につながると心しないといけないと、つくづく思うところである。

 

【特定社会保険労務士 亀岡 亜己雄】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝日新聞デジタルの記事に衝撃的なパワハラ事件のニュースがあったので取り上げてみたい。

こうしたニュースに出会う度に、いったいいつになったらパワハラがなくなるのかと思ってしまう。労務は人間の集まりと接触は致し方ない。根絶が困難でも、少なくする方法はないものか。

 

さっそく、記事で公開されていたものを掲載する。

 

佐川急便の男性社員(当時39)が上司からパワハラを受け、6月に自殺したことがわかった。会社側はいったん社内調査でパワハラはないと結論づけたが、男性が亡くなった後の再調査で事実関係を認め、9月になって本村正秀社長が遺族に謝罪したという。

4日、遺族側の代理人弁護士が記者会見した。代理人によると、男性は東京都内の営業所でドライバー数十人を管理する業務に就いていた。所内の課長2人が他の社員らの前で男性を厳しく非難したり、メッセージアプリで「うそつき野郎はあぶりだす」「なめ切ってるな」といった暴言、左遷をほのめかす発言などを送ったりしていた。男性は3月には1年近く続けた担当の職務も外された。

2人によるパワハラを指摘する匿名の内部通報が4月にあり、社内調査が実施された。だが、部下への聞き取りもなく「パワハラに該当するような事案は確認できません」と結論づけられた。その後も休日に課長の一人が男性へメッセージを送るなどの動きを継続。男性は6月に亡くなった。

男性の死亡を受け、佐川急便は改めて外部の法律事務所に調査を依頼した。法律事務所は、会社の対応について「従業員が安全に働けるように職場環境を守るという『安全配慮義務』に欠けており、適切な対応を怠った責任がある」と指摘したという。佐川急便は「パワハラが自殺につながった一因と認識している」(広報)といい、遺族に対しては「誠心誠意、対応させていただく」という。

 

厚生労働省による労働問題の年間集計では、もう何年もパワハラ(いじめ・嫌がらせ)問題がダントツでトップに君臨する。傾向は変わらない。もっとも、本人がパワハラと主張していても、実際はそうではない事案もあるだろうが、集計データ上は1位であるから、労働社会においてパワハラ問題は多発していることは間違いない。今回のニュースもその一つである。

 

記事を読むと会社は最初にパワハラはないと結論づけたようだ。小職も年間を通して、ほとんど扱わない日がないと言っていいほど、パワハラ問題を扱っている。経験上も多いと感じている。

 

パワハラの被害者と言い得る本人は、会社と話し合ったり、会社に申し立てたりすることをかなり多くの割合で行っている。電話やメール、リアル面談など方法は様々だが、相応に行っている。今回の被害者も佐川急便内部で声をあげたことは事実のようである。

 

被害者と言い得る労働者が社内で声を上げた場合、企業の対応は、「パワハラの確認ができなかった」「パワハラとは認められない」などの教科書のような回答が並ぶ。ほぼ例外なくと言っていいくらいである。

 

もちろん、企業側からすれば、認めなければいけない義務があるわけでもないから、結論内容に即問題ありとはならない。しかし、人の命が失われる事態になると企業の態度が一変することも相応にみられる。今回のケースでもそのようである。しかし、言うまでもなく亡くなってからでは遅い。

 

記事の以下の部分に今回のパワハラの行為内容が見て取れる。

所内の課長2人が他の社員らの前で男性を厳しく非難したり、メッセージアプリで「うそつき野郎はあぶりだす」「なめ切ってるな」といった暴言、左遷をほのめかす発言などを送ったりしていた。男性は3月には1年近く続けた担当の職務も外された。

 

メッセージアプリで送られていたのだから、その点は、当然に生前、男性も会社に申し立てたであろうし、会社も冒頭に写真公開されている画面を確認し、送り主に確認すれば、事実だと判明することは容易であったであろう。会社側の態度として、内容を問わず、職場内でパワハラ行為があったと認めない傾向が強くみられる。

 

故に、部下への聞き取りもなく「パワハラに該当するような事案は確認できません」と結論づけたのであろう。

 

今回も最初の調査で、事実確認をしないことで事を荒立ててしまったのではないかと推察する。小職がパワハラ問題に向き合っていて推察している範囲ではあるが、企業側がこうした態度をとる背景には、調査して具体的な話を聞いてしまうと、かなり細かいことまで確認して明らかにする作業がまっていること、事実が確認できてしまうと職場内パワハラがあったことになってしまい、体面的にもよくないこと、労働災害として扱われてしまうことなどが考えられる。

 

しかし、仮に、パワハラと認められる行為がないと判断したとしても、パワハラがあったとの声が上がる職場であることがよくないのであるから、対象者および職場全体に注意喚起するなどの実際の対応がなければいけない

 

面倒な話であるが、パワハラとは、パワハラに当たるか当たらないかよりも、事が起きる前後の措置が重要とされる領域なのだ。多くの当事者がこの点に注意がいっていない。

 

人間は年齢に関係なく、活字のインパクトにかなりの衝撃を受けるという。電話などで肉声で言われるよりも、デジタルツールの活字は強烈な影響を残す。活字はずっと残ってしまうこともその効果だ。今回の事案でもそうであったことは十分に考えられる。

 

企業に言えることは、いかなるパワハラ事案でも同じであるが、労働者から「パワハラ」との声があがったら、被害者と言い得る本人から、まず話を聞く。行為内容、回数、次期、背景など詳細に聞き取る。

 

次に、加害者と言い得る労働者から、聞き取る。当然、全面否定するから、そのことも踏まえて聞き取る。調査など得意としている企業はそうそうないであろうし、調査能力があるないといった問題でもあるので、スムーズではないかもしれない。しかし、調査は、明らかでないことを明らかにしていく作業である。

 

ここで重要なのは、企業としてできることはやった。動いた。対応したということである。これがないと事は紛糾することになる。

 

それ以前に、事前措置をきちんとすべきだというのは当然である。ぜひ、考えてほしいと願う。

 

【特定社会保険労務士 亀岡 亜己雄】

 

ワクチン接種拒否で解雇「許されず」 厚労省が指針

先日、日本経済新聞にこうしたタイトルの記事があった。

 

以下に一部を抜粋して掲載する。

 

厚生労働省は新型コロナウイルスワクチンを接種しない労働者や求職者に不利益が生じないよう企業に対応を促す。接種しないことだけを理由とした解雇や雇い止めは許されないとし、接種を採用条件とする場合も理由などの明示を呼びかける。健康上の理由などでワクチンを接種できない人に差別的な扱いが生じないよう配慮する。

 

なにげない数行の記事なのだが、とてつもない問題を案内しているメッセージ記事である。

 

ワクチン接種をしないことを理由の解雇や雇止め(=有期雇用契約の更新拒絶)、これは雇用契約の出口の話である。そして、ワクチンを接種することを採用条件にすること、これは雇用契約の入口の話である。

 

企業でこのようなことが横行したらと思うと背筋がぞっとする。社会的な問題に発展しかねない。小職自身もネット上の求人広告で、ある企業が、「ワクチン2回接種後1週間経過した方が応募の対象です」という告知を偶然目にした。

 

社会が、地球規模でワクチン接種が当たり前といった風潮、空気になっているため、企業が、ワクチンを条件・理由にすることについて、法的問題などを何も考えもせずに、平然と通知している状況が散見される。

 

まず、厚生労働省や政府ではどのようになっているかについて、その案内を見てみる。

 

 

厚生労働省の「新型コロナワクチンQ&A」には以下のようにQとAを記載し、広く案内している。

 

今回のワクチン接種の「努力義務」とは何ですか。

「接種を受けるよう努めなければならない」という予防接種法の規定のことで、義務とは異なります。感染症の緊急のまん延予防の観点から、皆様に接種にご協力をいただきたいという趣旨から、このような規定があります。

今回の予防接種は感染症の緊急のまん延予防の観点から実施するものであり、国民の皆様にも接種にご協力をいただきたいという趣旨で、「接種を受けるよう努めなければならない」という、予防接種法第9条の規定が適用されています。この規定のことは、いわゆる「努力義務」と呼ばれていますが、義務とは異なります。接種は強制ではなく、最終的には、あくまでも、ご本人が納得した上で接種をご判断いただくことになります。:

  https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/all/

 

ポイントは、接種を受けるよう努めるという努力義務となっており、あくまでも協力で強制ではないこと、接種は本人が判断できることである。

 

これだけ取り上げると、一見、きちんと案内されているように見えるかもしれないが、このQ&Aが記載されている箇所は、「新型コロナワクチンQ&A」のテーマ別の下から2番目の「その他」というブロックである。

 

ほとんどの国民はまずそこまでスクロールしてクリックして読むことはないのではないかと思われる場所に書かれている。本来であれば、接種が強制ではなく自分で判断していいことの案内は、最重要事項として、一番目立つ最初の位置に記載されてもいい事項である。

 

この「その他」のブロックの前までは、接種をする前提でのQ&Aがほとんどである。これは偏向案内とも言えるものである。

 

また、予防接種法では以下のように附帯決議がある。関係個所のみ抜粋して掲載する。全文は衆議院のページで確認できる。

 

予防接種法及び検疫法の一部を改正する法律案に対する附帯決議

 

 政府は、本法の施行に当たり、次の事項について適切な措置を講ずるべきである。

 

一 新型コロナウイルスワクチンの接種の判断が適切になされるよう、ワクチンの安全性及び有効性、接種した場合のリスクとベネフィットその他の接種の判断に必要な情報を迅速かつ的確に公表するとともに、接種するかしないかは国民自らの意思に委ねられるものであることを周知すること。

 

二 新型コロナウイルスワクチンを接種していない者に対して、差別、いじめ、職場や学校等における不利益取扱い等は決して許されるものではないことを広報等により周知徹底するなど必要な対応を行うこと。

 

三 新しい技術を活用した新型コロナウイルスワクチンの審査に当たっては、その使用実績が乏しく、安全性及び有効性等についての情報量に制約があることから、国内外の治験を踏まえ、慎重に行うこと。

 

五 新型コロナウイルスワクチンによる副反応を疑う事象について、広く相談窓口を設置し、国民に周知すること。また、海外における情報も含め、医療機関又は製造販売業者等から迅速に情報を把握し、情報公開を徹底するとともに、健康被害が拡大することのないよう、的確に対応すること。

https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_rchome.nsf/html/rchome/Futai/kourou95509A0BDB55A3044925862400328414.htm

 

ポイントは、ワクチン接種にあたっては、適切に判断できるように、リスクとベネフィットを公表すること、国民自らの意思で決めてよいこと、接種していない者に不利益扱いはしないことである。

 

おそらく、余分な解説はいらないかと思う。ワクチン接種を条件にし、接種しない者を採用しないことは差別にあたり、ワクチン接種を拒否することを理由の雇用契約の解約(解雇や雇止め)は、差別であり不当解雇にあたる。重大な不利益扱いである。

 

ワクチン接種が推奨されている空気があり、企業でもその空気を当たり前と捉え、流れに乗って当たり前に動いてしまっている。きとんと考えて、調べて、知ってほしいと切望する。

 

社内案内文書では、「ワクチン接種は強制ではありません」としておいて、会社の空気や態度などが、ワクチンを打たざるを得ないようになっている場合もある。こうした巧妙なやり方も目に付くが、強制とは言っていないから問題がないわけではない。

 

労働者側のワクチン接種強制、あるいは、半強制の証明は簡単ではないが、労働問題は実態がポイントになるため、納得できない場合には記録するなど詳細な事実を残すべく努力する必要はある。

 

企業側は、強制と言わなければいい式の手法はやめて、堂々と誠実に案内し、本人の自由意志に委ねるように取り組んでほしいところである。ちなみに、企業としては、ワクチンを「打て」も「打つな」もレッドカードである。

 

身体的事情からワクチンを打てない者も多くいるのも事実である。2021年11月9日時点で、医療従事者等を除くと、ワクチン2回接種者は69%ほどで、「一般人」は、60%ほどのようだ。つまり、一般人は10人のうち4人は、ワクチン未接種という実態にもある。もちろん、数値は今後、変化していくであろう。

 

参考:「データでみるコロナワクチン 日本の接種状況」(朝日新聞デジタル)

データで見るコロナワクチン:朝日新聞デジタル (asahi.com)

 

公表されているデータは内閣官房IT総合戦略室が公表しているデータをもとにしており、医療従事者等のデータは入っていないとされている。また、高齢者の接種者も別に把握できるため参考になると思われる。

 

今後、3回目、4回目と接種が進んでいく可能性があることを考えると、間違っても、「3回目を接種していることが応募条件です」はやめてほしい。3回目を打たない者は「解雇する」、あるいは、人事評価が故意に悪くなる、配置転換が不当になされるということも止めてしてほしい。

 

このままいくと、ワクチン接種をめぐる労働問題が、増えてしまうことが懸念される。

 

世の中の趨勢を思うと、メディア報道等に左右されずに、きちんと、エビデンスのしっかりした情報や知識を得て、知って、考えてほしいと願わずにはいられない。

 

【特定社会保険労務士 亀岡 亜己雄】

 

 

 

10月22日、厚生労働省は、社会保障審議会(厚労相の諮問機関)の医療保険部会を開いて、マイナンバーカードが健康保険証代わりに使える仕組みを本格的に運用することを明らかにしたようだ。本格化した日付は10月20日からである。

 

マイナンバーカードを健康保険保険証で使うためには、ポータルサイトで保険証として使うための登録をする必要がある。

 

マイナンバーを持っていない方は、社会はマイナンバーでいろいろできるようになっていくという利便性が向上していくので、保有しておくと便利だ。

 

現在、ざっくりではあるが、日本人の4割程度が保有しているようだ。ちなみに、マイナンバー通知カードは、マイナンバーカードではない。番号の通知書にすぎない。

 

マイナンバーを持っていると住民票、印鑑証明書などがコンビニの複合機から入手可能である。小職も活用しているが、役所にいかなくてもいいので楽である。手数料も少しリーズナブルになっている。

 

現在、税と社会保険と災害の関係はマイナンバーが活用が進んでいる。たとえば、国にマイナンバーを届けておくだけで、社会保険加入者の住所変更や氏名変更は別途の届け出が必要ない。個人の税金の申告の際にはマイナンバーを記入する。もうすでに、様々なものがマイナンバーに紐づけされている。

 

今後は、運転免許証との合体なども予定されている。判明している情報通りにいけば、運転免許証と健康保険証を持ち歩く必要がなくなり、マイナンバーカード1枚だけで足りるようになる。

 

マイナンバーを悪用されたらと心配する声もあるが、すでに、ICチップ入りの運転免許証などは、あちらこちらで平気でコピーさせている。ほかにも、社会保険、雇用保険、納税など公的なものはすでに番号付きで生活してきているのだ。

 

昨年も、「新型コロナ対策で国民1人に10万円の給付金を」の申請の方法として、マイナンバーカードを保有していると、インターネットですぐに済ませることができ、給付も割と早かった。

 

マイナンバーカードを保有していない場合は、郵送の手続き書面が届いてから記入して送る段取りであったため、給付も遅れがちとなった。もっとも、行政の事務態様など問題もあったのではあるが・・・。

 

このように、毎日使うわけはないものの、いざというときに、今後、マイナンバーを活用する場面が増えることが想定される。

 

リスクとベネフィット、それぞれあるが、ベネフィットがリスクに勝ると受け止められるのであれば、マイナンバーを保有するのも選択肢かもしれない。情報漏洩が不安ということも理解ができる。しかし、日本は、お隣の韓国のように、国民のマイナンバーが相当な率で漏れているといった状況になることは考えにくいであろう。韓国は異常にひどすぎると見た方がいい。

 

マイナンバー1枚で、病院・診療所・薬局といった医療機関が、患者の過去の処方薬などの情報を見ることができるようになるのだ。高齢者にとっては、主治医から聞かれてわからいといった状況がかなり減ることが予想される。

 

この点は明るいニュースでいいのだが、現時点での懸念材料もある。 マイナンバーを医療機関で健康保険証として使えるようにするためのインフラ整備が必要なのだ。必要なシステム改修を終えた医療機関は約22万9000のうち1万2894(5・6%)とされている。

 

こうなると現状では、導入は進んでおらず、本格運用開始後も当面は利用は限られるといことになる。厚労省によれば、新型コロナウイルスワクチン接種への対応で病院が忙しいことや、半導体不足で必要なパソコンが手に入らないことがインフラ整備が進んでいない理由とされている。

 

現時点でカードの読み取り機を申し込んだ医療機関は約13万もあることも事実だ。おそらく、大きな医療機関から進んでいくのではないかと思う。

 

先日、近隣の接骨院で、マイナンバーカードの健康保険証の運用の話をしてみたところ、接骨院はもっとも遅れていると思うと言っていた。当分は、健康保険証も持ち歩かないといけないようだ。

 

個人的には、1つなんとかしほしい点がある。毎月、医療機関、薬局、接骨院、歯科などで、必ず健康保険証の提示を求められることだ。健康保険証が変更になっているわけではないのだが、手間だと感じている。もちろん、毎月提示を求める趣旨は理解している。

 

マイナバーが健康保険証として使用できるようになったのであれば、毎月、健康保険証を提示しなくてもいい仕組みを一緒に考えてほしいと願う。そうなればかなり、わずらわしさが減る。

 

早く、インフラ整備されることを願う。

 

皆さんも、マイナンバーカードについて、自分自身で、考えて、調べて、知って、しっかり確認しておきましょう。

 

【特定社会保険労務士 亀岡 亜己雄】