国民民主党の政策から、最近では、「103万円の壁」の話がすっかり有名になっています。今回は、「130万円の壁」の判断の話です。
「130万円の壁」とは何か。これは、社会保険の被扶養者になるか否かの線引きラインのことです。ざっくりですが、就労していても年収130万円未満であれば、社会保険の扶養親族として扱われることを意味します。あくまでも主たる要件です。典型的には、130万円未満で働くパートの主婦などになります。
年収130万円という基準はどうやって決めているのかと言いますと、扶養となる者の過去の収入、現時点の収入または将来の見込みとなっています。あくまでも現行法でして、1年間の収入です。現在の基準はこうなっています。
しかし、
2026年4月から変わります。年130万円未満の年収認定方式が、「労働契約で定められた賃金から見込まれる年間収入」となります。もちろん、他に収入がないことが前提です。
正式な通達は、令和7年10月1日に発せられた「保保発1001第3号」「年管管発1001第3号」の通達になります。厚生労働省保険局保険課長及び厚生労働省年金局事業管理課長から全国健康保険協会理事長、健康保険組合理事長、日本年金機構理事長に対して発せられています。
労務的には、130万円未満の判断根拠が変わるだけではないかと簡単なことではありません。労働契約書や労働条件明示書に記載れたの賃金で年収を判断されるわけです。つまり、労働契約書や労働条件明示書の賃金をきちんと適正に記載されなければならないわけです。
労働契約書などに賃金を適正に記載することなど当たり前のことだと思われますが、これが実務では問題が多発している箇所でもあります。
たとえば、“求人広告(求人票)の賃金と実際の賃金が違う”という話を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。この労働契約書などの130万円未満ということに今後、問題が発生するリスクを考えておかなければならないと思います。
たとえば、⓵企業が、社会保険に加入させたくないからと、労働契約書や労働条件明示書の賃金を一方的に月10万に記載する。
(※ただし、今後、段階的に企業規模に応じて、小規模企業も、月8.8万円かつ週20時間以上のパートタイマー労働者などの加入が義務付けされていきますが・・この話はまた別な機会にやりたいと思います)
あるいは、⓶従業員が、夫の社会保険の扶養になりたいからと年130万円いかないような賃金を記載した労働契約書や労働条件明示書などを交付するように会社にお願いする。
といったことがあり得るかもしれません。
雇用契約書などがいい加減というテーマはたくさん扱いますが、もし、会社が社会保険の適用逃れ目的で、一方的に年収を少なくなるようにすれば、大きな問題となります。こうしたことは、従業員の合意を得ればいいということではありません。
社会保険の加入の時に被扶養者にする、加入後に収入が130万円を切ったので社会保険の加入を外れて夫の被扶養者になるといった場合に、行政機関が労働条件が記載された書面提出を求めることになるでしょう。
これまで以上に、労働条件明示書、労働契約書、雇用契約書などの書面をいつでも提出できるように、賃金と労働時間が適切に記載れたものを交付しておく必要があります。
こうした場面は、被扶養者になる・外れる時だけでありません。企業への社会保険調査の際にも同様の書類の提出が求められると考えておくべきでしょう。
労働者の方にあっては、自分が知らないところで、会社が賃金や労働時間に関して適切な記載をしない労働契約書や労働条件明示書などの書類を作成し、行政機関に提出している可能性があることから、その都度、確認などすることがいいかと思います。
企業に対しては、くれぐれも、社会保険の適切な適用を歪めるような行為は行わないよう、また、労働基準法第15条の通り、雇用契約締結にあたっては、労働契約書や労働条件明示書などの書面は、適切な内容で書面交付するようにしてほしいものです。
2026年4月からの変更ですが、適切な実態運用を切望します。