「ピアノ壊れてるよね」
練習をしない若いピアニストを援護してぼくは言う。
しかめっ面をした2人の男。ブラウンの髭を蓄えている。若いピアニストはとぼけて何も言わない。
犬は静かにおすわりしている。レイだ。
下の階で玄関が開く音がする。
幼い柴犬を妻が連れて帰ってきた。ミニだ。
レイと一緒に迎えにいく。
玄関で2頭の柴犬と戯れる。
2頭を連れて散歩に出かけようとするがリードが食いちぎられている。レイはそんなことしないはずだが彼女に「噛んじゃダメだと言ったでしょ」と叱る。
別のリードを出してきて2頭の首輪に掛ける。ミニと思われていた幼い犬は顔はミニだがお腹がずいぶん白い。クリーム色がかった厚い毛に覆われている。
そうだミニはもうなくなってるんだ、と思う。
改めて2頭の様子を見るとレイはやけにその幼い犬を牽制している。はじめてあったのので不審に感じているんだろう。モモだったら牙を剥いてるだろうなぁと思う。
レイは良い子なのですぐに馴染んできたようだ。
2頭を連れて散歩に出かける。
繁華街の大きな交差点を駅から離れるように歩く。
帰り道はミニ一頭になっていて。彼女は駅前の地下街への階段を降りようとするので上の道を行こうとリードを引っ張る。
大きな交差点の向こう側には朝鮮の民族衣装を着た人が沢山いて選挙運動をしている。
ネットでも話題になっていた候補者だなと直感する。
交差点はすごい喧騒で道のはじを歩く。
民族衣装ではなく普通の服を着た運動員が話しかけてチラシを渡そうとするが受け取らずに無視して歩く。
そもそもぼくはこの地域の住民ではないので彼に投票することはできないのだ。
ひとり離れると別の運動員が寄って来て話しかける。
無視して離れようとするがトレーニングウェアを着た中年の男性はさらについてくる。「頑張ってくださいね」とお愛想を言ってさらに「いや、もう頑張ってるよね」と握手をする。分厚い手のひらにぶっとい指だった。
その運動員が離れると後ろから民族衣装を着た候補者とその取り巻きが近づいてくる。
足速に離れようとするが、彼らの足音はどんどん大きくなってくる。
若いピアニストは誰だったんだろう。
あの場面での登場人物は日本人ではなかったので映画のワンシーンので記憶かもしれない。
そして民族衣装を着た立候補者は想像さえもしてないのに。
ミニと思われた子犬のお腹の白い毛の感触は目覚めても忘れてない。
若いピアニストはこの人かも…