思い出がある。消せないのか消さないのか,消えない思い出がある。もう随分と時間が経ってしまって,ほとんど忘れてしまったよ。星座占いも二人分探さなくなったし,待ち合わせすぎた場所も,風景に溶けてしまった。思い出が心にあることで塞ぎ,やがては忘れていくことにも怯えていた。忙しさに追われ,時間のせいにしながら,考えることから逃げた。けれどもう私は大丈夫。たくさん忘れたけど,たくさん大事なものをしまっている。私が星を好きになったのも,ちょっとした食べ物の拘りもきっとあなたのせい。だけど,そこに私がいる。今の私がある。

この世に生まれて人は,羞恥心との競走を強いられる。生まれて間もなく先行し,十代あたりより追い抜かれるも,数十年後にはまた抜き返しそのまま生涯を終える。この間時間にして・・・。


人口爆発。一秒間に三人の割合でこの世に人の生命が生まれている。ほら,君が瞬きをしたこの瞬間にも。小学校の頃だったか,リアルタイムに現在の人口を表示するカウンターを見た。それはただ一秒間に三ずつ増える装置に違いなかったはずが,あの頃の私は,目まぐるしく変化するその数字のなかに,確かにたくさんの産声を聞いていた。


記憶と思い出。過去を振り返ってみれば嫌なことばかり思い出す。記憶とは面倒で不便なものだろう。けれども,ご都合主義の私たちは,大切な記憶も意図的に心の片隅にしまっておいた。指を折る間に過ぎていった瞬間のことを,指を折って思い出していく。その過程でふと折る指を止めさせたできごと。あの瞬間も,確かに私たちは時間の止まった世界を生きていたはずだ。ほら,見つけられない?現在の自分を構成する要素の欠片を。


二十二歳。人生の体感速度という点では,もう人生の半分を全うしているらしい。つまり折り返し地点にいる。それを聞き,ふと近くに感じた死の気配。けれども,本当の死期に臨んだとき,その気配が気でしかなかったことが分かるのだろう。そして,その時点であってもまだ半分さえ分かり得ていないことを知るのだろう。


人生はあっと言う間に過ぎていくだろうが,その瞬間では語り尽くせぬことがあったのだと思えればいい。そして,未来の自分がこの拙文を読んで,腹を抱えて笑っていてくれればいい。

■知らせが届いた。おめでとう。随分と久しい連絡だというのに返す言葉さえ私には選ばせてくれないのか。あなたはいつも唐突で,だからこそ短い文面にさえあなたの変わらない面影を見つけられる。近いようで遠い当時を覚えている。共有した時間を覚えている。けれど,私の知らないあなたの時間があり,またあなたの知らない私の時間がある。全てに限りがあった。永遠を否定してきたけれど,今は笑われても信じてあげたい。あなたがそうするように。

■夢はとてもやさしくて,残酷だ。