新聞のチラシに隣町の理容店のチラシが入っていた。


「萌〜、あんたそろそろ髪ぼさぼさでしょ?。切ってきたらー?」



華の女子大生...ではなく、ごく至って普通の大学に通う相田萌。

比較的裕福な家庭で育ち、過保護っぽい所もあってバイト等もしてなかった。

但し裕福な家庭というのはケチから成り立ってるだけ...



萌「なに〜」


自分の部屋から降りてくる。


母「隣町の散髪屋のチラシが入ってたんだけど、ここに女性カットも1000円って書いてあるでしょ。あんた、この隣町までの定期あるんだしその髪は流石に雑すぎるから切ってきなさい」



萌は面倒くさいと思いつつも、確かに自分の髪で鬱陶しくなっていた所もあったので、母から1000円貰って適当な服着て出かけることにした。



家から電車で5分の隣町。

その散髪屋というのは駅から徒歩10分程度で着いた。いかにも古い床屋って感じ。


ちょっと気が引いたが、せっかくここまで来たので入る事にする。



古く重いドアを開くとお客が数人混じっていた。


若い男の店員「いらっしゃい。そこ座ってて下さい」


指示されたのは店の待合椅子。

テーブルに広げてあった適当な雑誌を見つつ、床屋の観察をする。


カット面は3台。

入り口から奥にゆくにつれてカット椅子が並ぶ形。

今いる待合椅子は入り口右手側で、カット椅子が並ぶ場所は1段、段差で高くなっている。


手前の席では若い男の店員が中学生くらいの子を丸刈りにしてる最中、奥の席は年配のおばさんがこちらも50代程度のおじさんの頭を強く抑えてバリカンで刈っていた。

床屋の中ではブーンという音がしきりになっている。


そして萌が驚いたのはなんとこの待合の中に女性がいた事だ。

私よりはちょっと見た目年上だけど、30代前半くらいの女性でこちらもまた普通の格好をしている。




20分程経ち、50代のおじさん→中学生の順で終わり待合にいたおじさんが奥に呼ばれて、ついに先に来ていた30代くらいの女性の方が呼ばれた。


若い男の店員の方だった。このままいけば私の前に待っているのは1人だから順序的には私もこの人になる。

正直、おばさんよりはこの若い人にやってもらいたかったから少しウキウキしてる。



手前の席なのでうっすらだけど会話が聞こえる


理容師「ーー様ですか?」


女性「いいえ」


理容師「失礼しました。今日はどうなさいますか?」


女性「いつものシェービングで」


理容師「分かりました」



萌は、あぁそういえば最近流行りのレディースシェービングか〜と納得した。

女性の席はゆっくり倒されてシェービングが始まった。


そんな事眺めてたら私の前のおじさんも奥に呼ばれた。

「今日も何ミリで」と淡々と会話をこなしてる。



料金表を見るとここは格安でレディースシェービングも出来るようだった。チラシに載せるだけの床屋ではある。


とりあえずレディースシェービングの女性が終わったら呼ばれるだろうと思って、私は雑誌の上からチラチラ覗いてた。




15分程経って、いつ終わるかなーなんて気軽な事考えていたら、奥のおじさんがいつの間にかカットが終わってシャンプーしていた。


そこから10分経ってもレディースシェービングは終わらず、先にカットを終えたおじさんがお金を払って出て行ってしまった。




これはもう奥のおばさんだなと私は観念すると、手持ちの財布とスマホをポケットの中に入れて呼ばれるのに準備した。




おばさんは床に残った髪の毛を払いきると、こっちへ来てこう話始めた。

どうも聞こえづらい声で、



おばさん「あんたもレディースシェービングかい?。ならそこのお兄さんしかできないからもう少し待ってもらうんだけど」


萌「いや...一応カットで来たんですけど」


おばさん「あ、そうかい。あんたが相間さんか?」


萌「ん、はいそうです」


おばさん「聞いてなかったんだけど顔剃りはどないするか?」


萌「ん?、ごめんなさい。聞き取れなかったのでもう一回」


おばさん「顔剃りはどーすんの?」


萌「あ、ならお願いします」


おばさん「分かったよ。ならこっちおいで」



聞き取りずらいゴモゴモした声でマスクしてるから何言ってんだかさっぱり分からなかった。



床屋の椅子に座る。

ちょっとフカフカしてて案外気持ちいい。


おばさんは何も言わず、私の襟を折ってタオルを差し込み、その上からさらにタオルを重ねた。

胸下まであるロングの髪を頭の上で一つにまとめる。


そして、てっきり横の席に殴り置きにされてる青い刈布をつけられるのかなーと思ったら、おばさんは暖簾の奥に消えた。



数十秒程で戻ってくると、白いクロスと新しく水を入れ直した霧吹きを持ってきた。


霧吹きを鏡の前に置くと、白いクロスを広げて私にしっかり被せる。



これが初めてな事が多くて、クロスの留め具がなくて紐で前側で蝶々結びにしてもらう。紐も白色で若干目立って、鏡で写して見るとちょっとした首紐になった。


白いクロスは自体はよく美容室行った時で慣れてるけど、袖がでない物は自身初でつい袖を出す動作をしちゃった事。

あと手をどうしていいか分からなくて見えない中でもぞもぞしてる。


あと白いクロスでも至る所に桃色や黄色、青の様々な花の模様があって割と派手な様な、お洒落な物だった。


そして最後にクロスの裾を引っ張られて、両脇の立てる物引っ掛けられて、まるでテントの様な姿になった。

ここに髪が落ちていくんだろうなぁ〜と納得する萌。



これら含めて鏡に写った自分がすごい異様な感じがするというか、初めてな事が多くてちょっと気が上がって動転してた。



おばさん「それじゃ切るわよ」



萌は気が上がっていて髪のオーダーを聞かれない事に気づかず、うんと頭で頷いてしまった。

それからは一瞬の事。バリカンのスイッチが入って、さっき待合椅子で聞いてた以上にブーンという音が響く。


そして間髪入れずに後頭部にひんやりした感覚と、耳たぶの後ろ辺りまでグイグイっと髪を持ち上げられる。

そして切れるのも一瞬で、おばさんがバリカンを上向きにすっと抜かすと、胸まであったロングはおばさんの手の中でよれよれに。


その髪は肩横から桃色や青色の花柄が描かれた所にぱっと投げ捨てられる。



隣ではシェービングが終わった女性が釘付けに、男の理容師さんも見入ってた。

待合椅子には4,5人程度のお客さん、みんな舞子の劇的なバリカンによる断髪シーンを見てた。

が、萌はそんな事にも気づける余裕はない。




萌がなにも言わずうちにバリカンは2投目。また長い髪の毛がパサパサと切り刻まれていく。

おばさんは単調にグイグイっと進めていく。

そしてそれらの髪も肩横から投げ捨てられて、もう下の部分は花が見えない感じの小さい黒い海ができてた。