ひとりぼっちだ


初めて過ごす社宅の夜は


3月にしては寒すぎた


静かすぎる部屋は逆にうるさく感じる


普段は気にならないような音が


やけに気になってしまう


両親が荷解きを終えて去った後


俺はぼろぼろと涙を流した


なんてことはなく寂しかったんだと


今では思う


父が朝に買ってくれたシャケのおにぎり


それを頬張りながら


ああ、俺は愛されていたのだと


今更になって気づいた


失って初めて気づくという


そんなありきたりに


俺たちはどうして抗えないのか


これからはこうやって


1人で立って生きていくのだ


俺はそわそわと部屋を歩き回り


明日の予定を考えている


今日やる事をやらない人生だった


でもそれも今日で終わりなのだ


今日やることは今日やらなければ


誰もやってはくれないし


誰もやれとは言ってくれない


ひとりぼっち


ひとりぼっちの夜だった


眠るのが怖い


朝が怖い


明日が怖い


生きることとは


死にゆくことだ


不安は果てしなく続いて


きっと最後の日まで


消えることはないのだ


そんな事を思った


馬鹿みたいだと


思う自分の傍で


指先を冷たくした自分が


恐怖に震えている


早くこの生活に慣れるのだ


それしかない


これからはずっと


ひとりなんだ