桜に寄り添うように雪が落ちた

手のひらに落ちたふたつの春の結晶は

片方はすぐに溶けて消えてしまった

青白い街路灯照らされて

冷めた缶コーヒーを飲み干した

家には帰れない

窓は投石で破られ

玄関は荒らされ

郵便受けには怪文書やら

カッターの刃の入った封筒

俺は何もしていない

やったのは俺の父親だった

強盗、強姦、殺人

あいつは大概メチャクチャだったが

とうとう死刑レベルの罪を犯した

最近の世の中は物騒だ

こんな事が毎日のように続いてる

一昨日は中学校で女子生徒が拳銃乱射

昨日は高校生が飛び降り自殺配信

今日は都内のターミナル駅で爆弾魔

狂っている

でも誰もそれを止めることはできない

例えば俺も

明日死ぬとわかっていたら

誰かを殺したとしても何も思わないだろうな

守るものがなければ

そうなったっておかしかないんだ

そして

人は裁きを求め

例えば我が家のような場合もそうで

モブジャスティスを振り翳している

そして浮世は分断される

そしてまた人が死ぬ

左手を見る

悴んで赤くなった指

そこには結婚指輪がはまっている

2人分で一万円くらいの

ありきたりな幸せの形

でもそれも親父の愚行で奪われた

生まれたばかりの娘は

元嫁の実家に預けられて

もう一生顔を合わさせてはくれないらしい

それは俺も望んだことだ

俺なんかの子であると言う事実を

抹消してあげたいと

そう思ったんだ

あの柔らかい頬や

つぶらな瞳や

小さな手を

俺はもう感じることはできないのだ

さて、明日はどう生きようか

非正規だった職場も追われ

あてどなくさまよえど

財布の中身は空っぽで

預金残高ももうすぐ底を尽きようとしていた

気紛れに買った缶コーヒー150円

今更後悔しても遅い

にしても高くなったなぁ

ガキの頃は100円で売っていた気がする

だんだん物の値段が上がって

金の価値が下がって

それでも稼ぎの変わらない俺たちは

日に日にひもじくなっていった

世の中がとち狂っているのも

そんなことが原因だったりして

全て誰かのせいにして

俺も罪を犯してみようか

百均で包丁を買って

強盗でもしてみようか

それとも…

やばい、なんだか意識が遠くなってきた

公園の夜は寒い

人間が暮らしていける気温じゃない

もう桜咲く春だってのに

狂い咲いた雪の花が

俺の命を凍らさせていく

とりあえず眠ろう

春の陽が溶かしてくれるまで

おやすみ