日常は時計と共に勝手に回る

本を読んでいて

風呂に入っていないことに気づいた

スマホを弄るばかりの日々では

何かを誤魔化しながら生活しているから

多少のことは気にならなくなる

動画を見て

記事を読んで

何か呟いて

そういうマルチタスクに没頭すれば

雑多な感情に押し潰されなくて済む

気紛れに取った分厚い本は

一年以上前に五十ページほど読んだまま

本棚に放置された小説だった

皮肉な笑いに富んだ私小説

つまらないシーンをボーッと読んでいると

頭がむず痒い

あー、そういえば風呂に入ってなかった

貴重な休日は泡に消え

日曜日の朝は7時

こんな時間まで起きていたなんて

風呂から上がると

母は言う

「風呂の水切っといて」

彼女は口を開けば

あれしろ

これしろ

もう大学生だと言うのに

まだ子供扱いだ

まあそれを子供扱いと受け取る

俺の心が子供なんだというのは

痛いほど理解していた

にしたって

彼女の中の俺と言うのは

結局生活の歯車の一つに過ぎないんだと

なんとなく悟った

心には誰もいないし

誰の心にも

俺はいない

ただ替のきく歯車だ

唯一になることなんてどうせできないのは

わかっているけれど

それは

あまりわかりたくないことだったりする