多くの人に幾百年の時を経て愛聴され続ける「ドン・ジョヴァンニ」。その映像化作品は数多あれど、 やはり名盤といえばこれだろうと思う

 

最晩年のフルトヴェングラーが指揮を務め、今なお「20世紀が生んだ最高のバス」と呼ばれ不動の人気を誇るチェーザレ・シエピを主演に据えるという、まさに最強の布陣をそろえている

 

 

今こうして改めてスクリーンで観ても、これが名作と呼ばれるにふさわしい理由が分かる

 

確かにカメラワークや演出には時代を感じざるを得なかったけれど、そもそもが約230年前の作品だ。そうした時代の経過と共に楽しめることこそが醍醐味だといえるだろう

 

 

肝心のチェーザレ・シエピのドン・ジョヴァンニは、ひたすらに優雅で、かつ野性味にあふれ、すべてのバランスが緻密なまでに練られている

 

私にとってはドン・ジョヴァンニの典型像のひとつで、そこにあるのが当然なのに昔からなくてはならないもの。もしこれを人生の途中で知ったのだとしたら、誰もこの誘惑に抗えはしないだろうな。そう思うだに、いまだに高い支持を受けているという事実にも合点が行くというものだ